2016 Fiscal Year Research-status Report
セルロース誘導体化から見るセルロース-イオン液体間の相互作用解析
Project/Area Number |
16K18731
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
阿部 充 京都大学, 農学研究科, 特別研究員(PD) (50734951)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | イオン液体 / セルロース / アセチル化反応 / 置換基分布 / 相互作用解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
3種のイミダゾリウム型イオン液体を溶媒とし、無水酢酸または塩化アセチルを用いてセルロースのアセチル化反応を行った。イオン液体のアニオンとアセチル化試薬から生成されるアニオンの組み合わせによって、置換基分布が変化することを明らかにした。具体的には、系中のアニオン成分がクロライドイオンのみである場合、セルロースのC2、3位の置換度はC3>C2となり、クロライドイオンと酢酸イオンが混在する場合はC3<C2、酢酸イオンのみの場合はC3=C2となった。これはイオンとセルロースの両水酸基との相互作用に起因する。アニオンが水酸基と相互作用した場合、必然的にイミダゾリウムカチオンもその水酸基に接近する。この大きなカチオンは、アセチル化試薬のセルロース鎖への接触を阻害する。そのため、クロライドイオンのみの場合に置換度がC3>C2となったのは、イオン液体とC2位水酸基がより強く相互作用したことを示す。一方、酢酸アニオンはイミダゾリウムカチオンの2位のプロトンを一部引き抜いてカルベンを生成し、これはエステル化反応の触媒として働く。従って、2つのイオンが混在する系で置換度の序列がC3<C2となった結果も、C2位水酸基の近傍にイオン液体が多く存在したことを示す。一方で、酢酸イオンのみが存在する場合に置換度がC3=C2となったことは、この環境下において両水酸基に対するイオン液体の相互作用力がほぼ等しかったことを示す。 これらの考察は、従来のイオン液体-セルロース鎖間の相互作用解析の結果と整合性がある。すなわち、上記の結果は、誘導体化反応から見積もられるイオン液体-セルロース鎖間相互作用に十分な信頼性があることを示すものであり、本研究において非常に重要な意味を持つ。従来はあまり解析が進んでいない種々のイオン液体等に対して同様の検討を重ねることで、相互作用の位置選択性を見積もれるようになると期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
溶媒の種類によって誘導体の置換基分布が変化するという非常に興味深い結果が得られたため、その原因の解明と相互作用解析への展開に注力した。そのため、種々の物性を示すイオン液体の合成に関しては、着実に進展してはいるものの、当初の計画ほど幅広く多量のイオン液体を合成するには至っていない。一方で、上述の置換基分布変化についての考察に関しては大きな進展があった。 セルロースのアセチル化反応の溶媒として用いるイオン液体の種類によって、得られるアセチルセルロースの置換基分布が変化し、その原因がイオン液体のアニオンとアセチル化試薬から生成されるアニオンの組み合わせにあることを明らかにした。得られた結果から推察されるイオン液体-セルロース間相互作用の結果は、従来の相互作用解析の結果と矛盾がなかった。これは、誘導体化反応の溶媒としてイオン液体を用いた場合に、得られる誘導体の詳細な構造解析からイオン液体-セルロース鎖間の相互作用を考察できるのではないか、という申請者の仮説を裏付けるものである。すなわち、従来の相互作用解析手法とは逆のアプローチから相互作用の解析が可能であることを示す結果が得られたものである。 以上の点から、本研究はおおむね順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度までの検討で、誘導体化反応から見積もられるイオン液体-セルロース鎖間相互作用に十分な信頼性があることが示された。そこで、従来はあまり解析が進んでいない種々のイオン液体や、計算化学的なアプローチが困難な多成分系に対して同様の検討を重ね、相互作用の位置選択性を見積もる手法を構築する。近年、セルロースを溶解するイオン液体系溶媒の開発において、分子性溶媒の混合が1つのトレンドとなり、関連研究が大きく進展している。例えば、イオン液体に共溶媒としてジメチルスルホキシド(DMSO)を混合すると、セルロース溶解能が向上することが報告されている[J. M. Andanson et al., Green Chemistry, 16, 5, 2528-2538 (2014)など]。また、申請者らが開発した、優れたセルロース溶解能を示すアルキルオニウム含有水酸化物水溶液[M. Abe et al., Chemical Communications, 48, 12, 1808-1810 (2012)など]に関しても、クラウンエーテルなどの他成分の共存によってセルロース溶解能が向上することが報告されている[T. Ema et al., RSC Advances, 4, 5, 2523-2525 (2014)など]。このような他成分系の相互作用解析においては、従来法では計算が困難な場合が多い。そのため、本研究で見出された、誘導体化反応からの相互作用解析というアプローチの適用は大きな意義を有すると考えられる。 また、当初の計画のとおり、さらに多様な物性を示すイオン液体の系統的な合成に関しても継続して研究を進める。アセチル化反応以外に、種々のエーテル化反応(ブチル化、ベンジル化など)にも検討の幅を広げる。誘導体の構造解析と並行して、NMRなどの分光学的なアプローチからも相互作用を見積もり、誘導体化反応から見る相互作用解析の妥当性と新規性を評価する。
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Causes of Carryover |
年度末に、フランスでの測定装置使用料の支払いを行った。当該使用料の請求はユーロ建てであった。外国送金にあたっては、手続きが完了した日の為替が適用されるため、予算残高を日本円で正確に把握することができなかった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
昨年度の残高28,500円は、今年度の試薬購入費用に当てる予定である。
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