2017 Fiscal Year Research-status Report
水産ベントスの資源量変動に対する浮遊幼生期の減耗過程の影響解明
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16K18736
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
入江 貴博 東京大学, 大気海洋研究所, 助教 (30549332)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | ベリジャー幼生 / ベントス / 温度 / 動的エネルギー収支 / 中立遺伝情報 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、水産ベントスの浮遊幼生に関して、動的エネルギー収支を考慮することで、海洋環境からその年の加入の規模を正確に予測することを可能とする数理モデルを構築することである。さらに、作成した数理モデルの性能を定量的に評価するために、個体群への着底を成功した個体から得られた胎殻の元素分析と、DNAを用いた集団遺伝解析による実証データを用いるための枠組みを確立することも試みる。これらの目的を達成するために、本年度は小課題②DEBモデルの構築、④胎殻の微量元素分析、⑤DNA分析の準備に取り組んだ。またこれらに加えて、野外で無作為にサンプリングされた個体の中立遺伝情報から判明した個体間の近親関係から、その年の加入個体数を推定するための統計学的アルゴリズムを完成させ、加入量の推定が可能となる必要条件の数学的な定式化を進めた。 小課題②:温度条件と資源加入量の関係性を記述するための動的エネルギー収支モデル(DEB model)の構築に取りかかった。従来のモデルを腹足類の幼生に適合する内容へと数式を書き換え、小課題①の飼育実験で得られた酸素消費量のデータを用いてモデルを構成するパラメータの値を決めるためのアルゴリズムを作成する作業を始めた。 小課題④:EDXの機能を有する分析走査電子顕微鏡を用いて、幼生が形成した貝殻に含有される微量元素比の平面分布情報を取得する作業を進めた。貝殻縦断面の構造的な接合部にストロンチウム濃度の濃い層が存在することを発見したので、これを報告するための論文執筆作業に着手している。 小課題⑤:対象種の全ゲノム情報に対してアセンブリとアノテーションの作業に着手した。また、DNA分析に必要なサンプルの大規模サンプリングを昨年度から引き続いて実施して、高精度の中立遺伝情報解析に必要な生体液浸標本を取得した。 以上の研究成果の一部は、国内外での学会等で発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、幼生の胎殻に対する微量元素分析に関して、研究成果をとりまとめて論文として発表できる段階まで進展させることができた点に加えて、対象種のDNAシーケンス作業に大幅な前進が見られた点が特筆に値する。また野外でのDNAサンプルに関しても、確実性の高いサンプリングを継続的に行える状況が確立したため、今後の見通しが明るくなった。小課題③粒子追跡の数値計算については当初の予定よりも作業が遅れている。全体としては、今後も各々の小課題に着実に取り組むことで、大きな不確定要素もなく研究全体を進めることができる可能性が高い。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の予定に従って、研究を進行する。小課題①幼生の飼育実験に関しては、2018年11月頃から琉球大学瀬底研究施設に長期滞在して、異なる複数の温度実験区を設けた浮遊幼生の飼育実験を実施する予定である。成長に伴った体サイズと呼吸量の測定を繰り返すことで、小課題②で必要とされる実証データを収集する。小課題②DEBモデルの構築に関しては、この二年間に行ったプログラミングの作業をさらに進めた上で、データの同化を実施する予定である。小課題③粒子追跡の数値計算に関しては、研究協力者との打ち合わせを行い、計算を進める上で必要となる情報のうちで未取得の項目を洗い出す作業を進める。小課題④胎殻の微量元素分析については、この二年間で習得した情報を論文として発表するための作業を進めるとともに、異なる温度区で飼育した幼生が作った貝殻の分析を行うことで、貝殻の化学組成から経験温度の復元するための算定式を構築する。⑤DNA分析については、既にシーケンスを終えたゲノムデータのアセンブリとアノテーションの作業を引き続き進めるとともに、黒潮流域の定点採集地での定時サンプリングを継続する。
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Causes of Carryover |
2018年3月に予定していたDNA分析用サンプリングのための国内出張が、フィールドの天候不良のためにキャンセルとなり、2018年4月に実施するように予定が変更となり、そのための旅費を年度内に使い切ることができなかった。同じ海岸でのサンプリングが2018年4月に予定されており、次年度に持ち越された使用額分はそのための旅費に充てる。
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