2016 Fiscal Year Research-status Report
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16K18739
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Research Institution | Fisheries Research and Education Agency |
Principal Investigator |
金治 佑 国立研究開発法人水産研究・教育機構, 国際水産資源研究所, 研究員 (10455503)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 空間モデル / 種多様度 / ハクジラ / イルカ / 北太平洋 / 亜寒帯循環 |
Outline of Annual Research Achievements |
種多様性の緯度勾配は、生態学の重要な概念として、これまで多くの研究がなされてきた。一方、鯨類は海産哺乳類のなかでもっとも多様に分化した分類群であるが、その種多様性勾配については、知見が限られてきた。そこで本研究課題では、北太平洋鯨類目視調査のうち、1983-2006年の夏季(7-9月)に実施された93航海のデータを抽出し、空間モデルを用いた解析から種多様度の推定を試みた。ハクジラ類のなかでも種数が多く、種間でニッチの競合が想定される小型ハクジラ類(マイルカ科およびネズミイルカ科)に着目した。マッコウクジラ科やアカボウクジラ科など中~大型ハクジラ類は、食性などの点で小型ハクジラ類とは生態が大きく異なることから対象外とした。当該調査期間中、マイルカ科16種およびネズミイルカ科3種の観察・記録があった。空間分布モデル推定に必要な十分なデータ数のある14種を抽出し、解析に用いた。その他5種は生息個体数が少なく、多様度指数の推定に大きく影響しないと考えられる。HedleyによるDensity surface modelingの考え方に基づき、遭遇率と群れサイズそれぞれを応答変数に、各物理・生物環境値、地理座標、および発見関数から導かれる有効探索幅などを説明変数にして、一般化加法モデルにより空間モデルを構築した。14鯨種別に推定した空間モデルから、北太平洋広域に緯度経度1度グリッド別の個体数推定値を得た。この値を用いて、各グリッドにSimpson多様度指数を計算した。同様に、任意の閾値を設けて(例えば推定個体数1以上を、当該種の出現と定義)、各グリッドの出現種数を推定した。これら推定値を広域にマッピングした結果、夏季における小型ハクジラ類の種多様度は(1)低緯度域で高く高緯度域で低い、(2)沿岸域で高く沖合域で低い、(3)亜熱帯循環と亜寒帯循環の境界域周辺において高い傾向が認められた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初の研究計画として初年度は目視調査データの整備とモデルの説明変数となる海洋環境データの整備、さらには空間モデルの構築を内容としていた。当該年度に、過去の長期広域データを用いたモデル構築および一連の空間分布・個体数・種多様度の推定について作業を行なった。さらにモデルの改良検討として、Hedley et al. (2004)が提唱するポアソン型カウントモデルのみならず二項分布、tweedie分布等の検討も行い、適切なモデルから推定した分布・個体数・種多様度の空間パターンについて仮説を提唱した。本研究結果は、査読付き国際学術誌に掲載された。北太平洋広域での分析が一段落したことで、直近年に行われた調査データを取り入れた、さらに詳細な分析(空間モデルによる個体数推定の妥当性検証、分布・個体数・種多様度の年変動解析等)にも十分な時間をさける見込みである。これらを鑑み、本研究計画は当初の計画以上に進んでいると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
近年、空間モデルを用いた個体数推定が世界各海域で様々な鯨種を対象に行われるようになった。しかし、従来型のライントランセクト法から得られた結果と直接比較して、空間モデルの妥当性を検証した例は多くない。過去~直近年に行われた目視調査データを用い、マイルカ科鯨類の個体数を空間モデルおよび従来型ライントランセクト法双方用いて解析し、比較検討する。さらに長期での分布・個体数変動とそれに伴う種多様度の空間パターンについても検討を進める。昨年度実施した分析では、過去20年以上のデータを統合・平均化して用いたが、今年度は時空間スケールをさらに細かく扱うことで、詳細なパターンが明らかにされる見込みである。
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Causes of Carryover |
例年参加している国内学会に、通常業務との関連で出席できなかったことが所要額が少なかった理由のひとつである。また、関連分野の図書購入が予定より若干少なかったことも挙げられる。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
今年度は、2年に1度開催される国際海産哺乳類学会の開催年であることから、本研究で得られた成果発表のために出席を予定している。また、論文作成にあたって必要な英文校閲、掲載料、カラーページチャージ等の支出を予定している。
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Research Products
(1 results)