2016 Fiscal Year Research-status Report
生産コスト低減に向けた農地集積のマーケットデザイン
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16K18761
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Research Institution | Meiji University |
Principal Investigator |
中嶋 晋作 明治大学, 農学部, 専任講師 (00569494)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 農地取引 / マーケットデザイン / 空間計量経済学 / 政策評価 / GIS / 巡回セールスマン問題 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成28年度は、農地集積のマーケットデザインの事前準備として、大規模経営の稲作生産費の実態を把握した。「日本再興戦略」や「農林水産業・地域の活力創造プラン」において、「今後10年間で、資材・流通面等で産業界の努力も反映して担い手の米の生産コストを現状全国平均比4割削減」することが明記されているが、必ずしも農業地域類型別、経営類型別の大規模経営の稲作コストが正確に把握されているとは言い難い。そこで、大規模経営の詳細な実態調査から、稲作生産費低減の課題を抽出する。 平成28年度は、大規模経営の稲作生産費を正確に把握することと同時に、次年度以降の研究課題である交換分合のマーケットデザインに関わって、農地集積にともない、どの程度稲作コストの低減が可能なのか検証することに分析の狙いがある。 具体的な分析の結果は、以下の通りである。農地集積に伴って顕在化する畦畔・水管理(圃場巡回)作業に焦点を当てて、巡回セールスマン問題(Traveling Salesman Problem:TSP)を援用しながら、効率的な水資源の利用の在り方について検討した。研究の対象となる経営体は、石川県羽咋市で水稲作を中心に農業経営を行う農業法人Nである。シミュレーションの結果、ランダムに農地集積した場合には、新規借入農地数に連動して増加する総移動距離の増加傾向は逓減する一方、総移動時間は異なった増加パターンを示すことが明らかとなった。基礎的な分析であるが、将来的な農地集積が進展した際に予想される状況に関する有用な知見が得られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成28年度の研究課題である大規模経営の稲作生産費の実態把握については、分析が完了しているものの、まだ学術雑誌に公表されていないため、平成29年度中に論文投稿する。 次年度以降の研究課題である農地政策の政策評価に関わって、農地・水・環境保全向上対策の地域農業への影響評価に関する分析を、XV European Association of Agricultural Economists (EAAE) Conferenceにおいて報告することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度の研究課題は、圃場整備事業にともなう農地集積の効果に関する計量経済学的考察である。圃場整備事業の効果として、土地生産性の向上、労働時間の短縮、生産コストの削減、担い手への農地の集積などが挙げられるが、近年は農地集積の促進、担い手の育成等に重点が置かれている。これまで圃場整備事業を実施した地域では農地集積が進展しやすいと指摘されてきたが、圃場整備事業に関する適切なデータが利用できなかったことも影響して、必ずしも計量経済学的な分析による評価は行われてこなかった。この点を考慮して、農林水産省「農業基盤情報基礎調査」のGISデータを用いて、圃場整備事業の事業実施前後のインパクトを計量経済学的に検証する。農林水産省「農業基盤情報基礎調査」のGISデータは、ほ区レベルの詳細な基盤整備の状況を入手できる点に特長がある。 分析の手順は、以下の通りである。 ①まず、「農業基盤情報基礎調査」のGISデータと『世界農林業センサス・農業集落カード』を利用してデータセットを構築する。②次に、如何なる地域で圃場整備事業に取り組んでいるのか、プロビットモデルから明らかにする。③最後に、圃場整備事業の政策評価を行う。インパクトの評価は、圃場整備事業の内生性を考慮して、傾向スコアマッチング(Propensity Score Matching: PSM)による差の差(Difference in Differences: DID)推定を用いる。また、Spatial Matchingという空間計量経済学の新たな手法を用いて、空間的な要因を考慮したマッチングを行う。推定に用いるデータは、2005年、2010年、2015年の『世界農林業センサス・農業集落カード 』のパネルデータである。分析結果から、圃場整備事業の地域農業への影響をエビデンス・ベースで評価する。
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Causes of Carryover |
平成28年度の取り組み課題では、莫大なデータを扱ったため想定していた速さで分析を終えることができず、予定していた調査まで進むことが出来なかった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成28年度に予定していた調査は、平成29年度の研究課題にも関連する調査である。そのため、平成29年度の研究費の使用計画に大きな変更は無いが、研究費の使用に支障がきたすことのないように、使用計画を着実に実行する予定である。
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