2016 Fiscal Year Research-status Report
牛ウイルス性下痢ウイルスが持つ免疫誘導能力の応用に向けた基盤研究
Project/Area Number |
16K18796
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Research Institution | Nippon Veterinary and Life Science University |
Principal Investigator |
塩川 舞 日本獣医生命科学大学, 獣医学部, 助教 (00739162)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 牛ウイルス性下痢ウイルス / E(-)ウイルス / 自然免疫応答 |
Outline of Annual Research Achievements |
牛ウイルス性下痢ウイルス(BVDV)のE(-)ウイルスは、感染すると宿主の自然免疫応答を強力に誘導することが分かっている。このE(-)ウイルスを牛腎臓由来株化培養(MDBK)細胞を用いて上清継代を50回行った。感染すると培養細胞の自然免疫応答が亢進するため、継代を重ねるごとにウイルスの力価が低下していくことが予想されたが、50回継代する中でウイルスが検出限界以下になることはなく、継続してウイルスを検出することが出来た。継代50回目(P.50)のウイルス力価は、約10 4.7 TCID50/mLであり、継代に用いたP.0のウイルス力価と比較して100倍近く低い値となった。以上の結果から、E(-)ウイルスは50回の継代を経て、高値で安定するのではなく、比較的低値で安定しそうな傾向が認められた。継代前後のウイルス間で大きな力価の違いがあることから、ウイルスの自然免疫制御部位や増殖性を規定し得る遺伝子領域に変異が生じている可能性が高まった。 さらに、確実にE(-)ウイルスの自然免疫制御部位に変異を生じさせることを目的として、インターフェロン-α(IFN-α)存在下でのウイルス継代も実施している。IFN-α存在下でも増殖可能になった変異ウイルスに生じた遺伝的変化も併せて次世代シーケンス解析を行う予定である。従って、平成28年度に実施予定であった次世代シーケンス解析は次年度に実施する計画に変更した。 また、次年度以降には、BVDVが誘導する自然免疫応答を正確に解析する必要があるため、今年度から牛由来の培養細胞とゲノムを用いたレポーターアッセイ系の確立に向けて実験も開始した。現段階では、ウシのI型IFN産生に密接に関与するbovine IFN-β1及びβ3のプロモーター領域をレポーターアッセイ用ベクターにクローニングするところまで完了している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
BVDV/E(-)ウイルスの継代を培養細胞を用いて50回行い、当初の計画通り、宿主環境に適応したと考えられるウイルスを回収することが出来た。しかし、50回継代後のウイルスは高い力価で安定すると予想していたが、予想していた力価より低い値で安定した。この結果を受けて、これまでの継代とは異なる方法で、より確実にウイルスの自然免疫制御を担う遺伝子部位に変異を導入させる必要があると判断した。そのために、IFN-α存在下でのウイルス継代実験を追加で実施しており、得られた変異ウイルスも併せて次世代シーケンス解析を行う計画に変更した。添加するIFN-α濃度の条件検討やウイルス継代(4日間隔)に日数を要することもあり、次世代シーケンス解析を次年度に実施することになったが、この計画変更により、ウイルスの遺伝的な変化を確実に見つけられると考えている。 また、平成29年度以降に実施予定であった、BVDVによる自然免疫反応を評価できるレポーターアッセイ系の確立に向けた実験を前倒しで実施できており、解析に使用するレポータープラスミドをすでに構築済みである。さらに、今後はリバースジェネティクス法を用いてBVDVの変異ウイルスを複数作出する予定であるが、BVDV遺伝子が大腸菌内で非常に不安定であることがわかったため、大腸菌を極力使用しない手法で、ウイルス遺伝子の組換えから感染性粒子の作出まで実施できる系を平成28年度内に見出した。これにより平成29年度の組換えウイルスの作出は比較的スムーズに実施できると考えている。 当初の研究計画を変更した部分もあるが、前倒しで研究を進められている部分もあるため、総合的に判断して平成28年度は概ね順調に研究を遂行できている。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度は、宿主環境適応前後(継代実施前と後)のE(-)ウイルスをサンプルとして次世代シーケンス解析を実施する。継代の前後でウイルスに遺伝的変化が認められなかった可能性も考慮して、あえて免疫学的な圧力(IFN-α存在下)をかけた中でE(-)ウイルスを継代し、IFN-α存在下でも増殖可能な変異ウイルスの回収を試みる。この実験を行うことによって、E(-)ウイルスが持つ免疫誘導能に変化をもたらすことが出来ると考えている。したがって、平成29年度に実施予定の次世代シーケンス解析には、このIFN-α存在下でも増殖可能な変異E(-)ウイルスも解析に追加する。これらの実験から得られた結果を比較・解析し、BVDVの免疫制御に関与している遺伝子部位を、既報やその他の情報を考慮した上で複数選抜する。選抜した変異をウイルス遺伝子に導入し、組換えウイルスを作出する予定である。BVDV遺伝子は、大腸菌内で不安定な性質を有していることがこれまでの実験から明らかになっているため、この変異を導入する作業が平成29年度の課題になると考えられる。作業が思うように進まない場合は、BAC(bacterial artificial chromosome)システムなどの導入も視野に入れて、効率的に作業が進むよう工夫する。ウイルス遺伝子への変異導入が完了次第、順次組換えウイルスを作出し、各組換えウイルスの増殖性、遺伝子配列の確認までを平成29年度内に完了する予定である。
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