乳牛の発情・排卵障害における慢性ストレスの関与と被毛を用いた臨床評価法の検討

2016 Fiscal Year Research-status Report

• Project/Area Number: 16K18802
• Research Institution: Tokyo University of Agriculture and Technology
• Principal Investigator: 遠藤 なつ美 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 助教 (40726684)
• Project Period (FY): 2016-04-01 – 2019-03-31
• Keywords: 発情・排卵障害 / 乳牛 / シバヤギ / 被毛コルチゾール

Outline of Annual Research Achievements

酪農現場で問題となっている乳牛の発情・排卵障害の原因として慢性ストレスの関与が指摘されている。しかし、通常の飼育管理下においてどの程度のストレスが発情・排卵障害の誘因となり得るかという点については明確にされておらず、現場レベルでの対策を講じることが難しい。本研究では、慢性ストレスが乳牛の卵巣機能や発情行動に及ぼす影響をその内分泌機序に焦点を当てて検証すると共に、慢性ストレスを臨床的に評価するための新手法として被毛コルチゾール濃度の分析に取り組み、基盤技術を確立することを目指し、これまでに以下の研究を実施した。
１．慢性ストレスが発情・排卵過程に及ぼす影響の内分泌メカニズムの解明
慢性ストレスのモデル動物をシバヤギへのACTHの微量投与によって作出し、発情行動の発現や正常な卵胞の発育―排卵過程に重要な繁殖ホルモンの血中動態を検討した結果、ACTH投与による血中コルチゾール濃度の上昇は、発情行動の発現や卵胞発育に影響を及ぼすことが示唆された。
２．コルチゾールの血液から被毛への移行・蓄積過程の定量的評価
コルチゾールの血中動態ならびに被毛への移行・蓄積過程を定量的に評価し、それらに影響する可能性がある年齢や毛の成長速度について明らかにするため、シバヤギにACTHを投与して被毛コルチゾール濃度の変化を調べた結果、1日1回7日間投与では投与後1か月後ならびに2か月後に採取した被毛中コルチゾール濃度に有意な上昇は検出されなかったが、1日2回14日投与では、投与後1か月後の被毛コルチゾール濃度に有意な上昇が検出された。したがって、被毛中コルチゾール濃度の上昇は、ある程度長期間の血中コルチゾール濃度の上昇を反映するものであることが明らかとなった。

Current Status of Research Progress

2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.

Reason

当初の研究計画で予定していた実験内容が順調に進められている。

Strategy for Future Research Activity

先の研究で得られた被毛コルチゾール濃度の定量的評価の結果を踏まえ、実際の酪農現場において飼育される乳牛がどの程度のストレスを感じているかを被毛コルチゾール濃度を指標として調査し、分娩後の卵巣機能の修復ならびに発情の発現状況、卵巣疾患の受胎成績を中心とした繁殖性との関連について検討する。また、乳牛の栄養状態、周産期疾患や炎症の有無に加えて、管理者への馴致度や牛群における順位を調べることで心理的・社会的ストレスの程度を評価し、被毛コルチゾール濃度の増加（＝慢性ストレス）につながる具体的要因を明らかにする。
野外での調査は申請者が自ら行うが、計画通りに進まない場合、臨床現場の獣医師にサンプル収集などの協力を依頼して進める。

Causes of Carryover

当初予定していた物品の購入や学会発表のための旅費が少なかったため、次年度使用額が生じた。

Expenditure Plan for Carryover Budget

実験に使用する物品の購入、学会発表のための旅費、論文投稿費用として使用する計画である。