2017 Fiscal Year Research-status Report
ウマの滑膜由来間葉系幹細胞を用いた骨軟骨再生に関する研究
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16K18806
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Research Institution | Saga University |
Principal Investigator |
村田 大紀 佐賀大学, 医学部, 特任助教 (00772683)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 骨軟骨再生 / 大腿骨内側顆 / 軟骨下骨嚢疱 / ウマ / 滑膜幹細胞 / 三次元 / 細胞構造体 / スキャフォールドフリー |
Outline of Annual Research Achievements |
本実験は,ウマにおける関節内骨折,離断性骨軟骨症,および軟骨下骨嚢疱といった,関節疾患に対する治療法の確立を目的とする。今年度は,昨年度からの継続として,滑膜幹細胞由来の細胞構造体を埋植した骨軟骨欠損について,画像検査と関節鏡視下検査を行うことで経過観察し,軟骨と骨の再生を臨床的に評価した上で,最終的には組織学的検査により,詳細な検討を行ってきた。以下に,その研究成果の具体的内容を記載する。 (前年度は,①~③までの項目に分けて,研究成果を記載した。そのため,今年度の成果項目については,④~⑦として記載する。) ④実験用ウマ(ポニー)の大腿骨内側顆に,円筒状の骨軟骨欠損を作出し,円柱状の細胞構造体を移植[移植群]または無処置(非移植)[対照群]として,手術後6ヶ月の間,継時的に骨組織の再生を,CT検査により経過観察した。その結果,全てのポニーにおいて,対照群に比べて移植群の方で,早く縮小する傾向が認められた。 ⑤CT検査後,MR検査と関節鏡視下検査も行い,軟骨組織の再生や関節表面の滑らかさについても評価を行った。その結果,関節軟骨の再生が認められ,関節表面が滑らかに再現されている個体が確認された。 ⑥手術後6ヵ月で剖検を行い,組織学的検査により軟骨と骨の再生について評価した。その結果,対照群では,軟骨組織と骨組織の修復が部分的に認められたものの,不完全であったのに対して,移植群では,欠損孔の表層には軟骨組織が再生され,深層には軟骨下骨が形成されている個体が認められた。 ⑦その他,前年度にバイオ3Dプリンタを用いて作製することに成功した,ブタ脂肪組織由来間葉系幹細胞による円筒状細胞構造体のノウハウを基に,今年度はウマ滑膜由来間葉系幹細胞を用いて,関節鏡視下移植での手術操作にも耐え得る強度と弾力性を兼ね備えた,円筒状構造体を作製することにも取り組んだ。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
④当初の予定通り, 昨年度からの継続として,ポニーの大腿骨内側顆に作出した円筒状骨軟骨欠損に,円柱状細胞構造体を移植した後,6ヶ月間CT検査で経過を観察した。その結果,対照群(非移植)よりも移植群の方で,早く縮小する傾向が認められた。さらに,対照群においては,欠損自体の大きさが,欠損作製直後より拡大する所見も認められた。これより,本実験の骨軟骨欠損モデルにおいては,細胞構造体を移植することで,欠損領域の拡大が制御され,さらに骨組織が再構築される効果が認められた。 ⑤その後も当初の予定通り,MR検査と関節鏡視下検査を行うことで,軟骨組織の再生や関節表面の滑らかさについても確認した。その結果,関節軟骨の再生が認められ,滑らかな関節表面の再現も確認することができた。一方,軟骨再生が確認されなかった個体も認められたため,現在その原因について解析・検討中である。 ⑥画像検査および関節鏡視下検査後も,当初の予定通り,手術後6ヵ月で剖検を行い,組織学的検査にて,軟骨と骨の再生を評価した。その結果,非移植群では,軟骨組織と骨組織の修復が不完全であったのに対して,移植群では,欠損孔の表層には軟骨組織の再生が,深層には軟骨下骨の形成が認められた。しかし,軟骨再生が認められなかった個体も確認されたため,上述⑤と同様に,その原因について現在解析・検討中である。 ⑦その他,前年度のバイオ3Dプリンタによる細胞構造体作製のノウハウを基に,今年度はウマ滑膜由来間葉系幹細胞を用いて,強度と弾力性を兼ね備えた円筒状の細胞構造体を作製することにも取り組んだ。今後,この構造体の作製に成功することができれば,関節鏡視下での移植計画を,実行に移すことが現実的に可能となる。それにより,自然発生性のサラブレッド育成馬における軟骨下骨嚢胞に対しても,関節鏡視下での細胞構造体の移植を実施することが出来ると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度も当初の予定通り,昨年度に行った「膝関節切開による細胞構造体の大腿骨内側顆への移植」のフォローアップとして,CT検査により,骨組織の再生を経過観察し,MR検査と関節鏡視下検査により,軟骨組織の再生および骨軟骨欠損表面の滑らかさについて評価した上で,最終的には組織学的検査を行い,軟骨と骨の再生について詳細に検討してきた。またこれらの評価をまとめて,臨床検査結果および組織検査結果における,両者の関連性についても検討し,実際の臨床現場において評価基準となる,基礎的な組織検査データを構築することができた。これにより来年度は,実臨床における自然発生性の軟骨下骨嚢胞に対して,細胞構造体の移植を実際に行うため,育成競走馬の骨嚢胞症例を前もって確保し,すぐにでも移植できるよう準備を整える予定である。 また今年度は,昨年度に行った「ブタの脂肪組織由来間葉系幹細胞を用いてバイオ3Dプリンタにより作製した三次元立体細胞構造体の検討」で得られたノウハウを基に,「ウマの滑膜由来間葉系幹細胞を用いてバイオ3Dプリンタにより作製する三次元細胞構造体の検討」についても行うことができた。そこで来年度には,関節鏡視下移植手術にも耐え得る強度と弾力性を兼ね備えた円筒状構造体を完成させ,実際の競走馬における関節鏡視下での移植手術を,円滑かつ確実に実施するために,構造体移植用の特殊器具の開発などについても,引き続き検討を重ねていく予定である。 さらに来年度は,本実験でこれまでに得られた全てのデータを統括し,解析・検討を重ねた上で,国内および国外での学会において,積極的に発表を行うと共に,そこで得られた討論の内容を踏まえた上で,本研究内容を学術論文として公表することを目指す予定である。
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