2016 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
16K18823
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Research Institution | Tokyo University of Agriculture and Technology |
Principal Investigator |
藤井 毅 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 特別研究員 (30730626)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | ガ類性フェロモン / エノサイト / フェロモン関連炭化水素 / 体表炭化水素 |
Outline of Annual Research Achievements |
化学的に性質の異なる脂肪族型と炭化水素型の二型を示すガ類の性フェロモンについて、炭化水素型性フェロモン生合成器官の実体が不明なため、炭化水素型性フェロモンを分泌するヒトリガ科のアメリカシロヒトリとキマエホソバを用いて当該器官の探索を開始した。 まず、両種を頭部、胸部、腹部、フェロモン腺、及び血液の5試験区に分割し、それぞれのヘキサン抽出物中に含まれるガ類フェロモン関連炭化水素を質量分析により調査した。その結果、両種において頭部を除く全ての試験区からフェロモン関連炭化水素が検出され、血中の運搬タンパク質リポフォリンを介して予想以上に全身に分布していることが示唆された。 並行して、昆虫で体表炭化水素の形成に関与することが明らかとされているエノサイトの類似器官を「気管との癒着」及び「大きさ」という二つの解剖学的所見に基づき探索した。両種のメス成虫腹部を解剖し高解像度実体顕微鏡下で観察した結果、両種の気管にブドウの房状に付着した半透明の白色器官の存在を認めた。続いて、当該器官の核、及び脂質染色し暗視野顕微鏡下の観察により、この器官が脂肪細胞塊であることを確認した。 一方で、アメリカシロヒトリのフェロモン腺と表皮クチクラ由来のRNAを大規模シークエンスし、その結果の比較解析から、ショウジョウバエの体表炭化水素を生合成する脱カルボニル酵素のホモログ遺伝子がアメリカシロヒトリのメスの表皮クチクラで特異的に高発現していることが分かり、この遺伝子を仮にHc77CYP4Gと名付けた。Hc77CYP4Gの部分配列をプローブとし、in situ ハイブリダイゼーションを行なった結果、腹部矢状面の切片から気管に付着したブドウの房状組織ではなく、その基底部のソケット細胞、或いは上皮細胞と思われる箇所にシグナルを認めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
化学分析の結果、当初の予想に反し、フェロモン関連炭化水素が頭部を除く全ての試験区から検出された。とりわけ胸部クチクラから検出された性フェロモン前駆体量は他試験区と比べて差が無く検出された。これは、腹部で生合成された性フェロモン前駆体炭化水素が選択的に腹部末端のフェロモン腺へ輸送されていないことを示唆しており、当初予定していたフェロモン前駆体量を手がかりに組織や器官を絞り込んでいくことが難しくなった。 更に現在までに、炭化水素型性フェロモンの前々躯体であると考えられている食物由来の遊離脂肪酸を、脂肪酸分析により虫体広範にわたり探索したが検出されていない。このことから、組織を標識した前々躯体脂肪酸と培養し変化を追跡することも難しくなった。 しかし、本研究目的はガの炭化水素型性フェロモンの生合成の場を明らかとすることにある。この期間ではエノサイトと思われる脂肪細胞の集合器官を、これまでに報告の無かったガ類成虫で発見したこと、遊離脂肪酸ではないが脂肪族CoAを基質に炭化水素へ変換する脱カルボニル酵素遺伝子の配列情報を得ていることから、研究は概ね順調に進展していると判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の目的がガの炭化水素型性フェロモンの生合成の場を特定することであるため、今後は配列情報を獲得しているHc77CYP4Gの機能解析を優先的に行なう。また、質量分析より胸部からフェロモン炭化水素が発見されたことを踏まえて、in situハイブリダイゼーションによる胸部における遺伝子発現の確認も行なう。 ガには炭化水素型性フェロモンのみならず、アワノメイガ類、カイコガなどの脂肪族型性フェロモンを分泌する種も多くいる。カイコガのフェロモン腺には油滴が含まれ、性フェロモンの前々躯体を貯蔵することが知られているが、脂質染色の結果、本期間で明らかとなった脂肪細胞塊の染色像からこれらの類似性が示唆された。 このため、今回発見したエノサイト類似器官の保存性、油滴、ならびにHc77CYP4Gのホモログの有無を探索する。ここから得られた結果より、ガの種分化に伴う性フェロモン分子の変遷について考察を加える。
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Causes of Carryover |
大規模シークエンス解析とin situハイブリダイゼーションに関わる費用が予算を下回ったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度は、解析対象とする昆虫種を増やすため、その費用に充填する。
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[Presentation] Analogues of sex pheromone component in the pheromone gland of Bombyx mori2016
Author(s)
Takeshi Fujii, Hidefumi Mitsuno, Shigeru Matsuyama, Takuya Nirazawa, Katsuhiko Ito, Takeshi Yokoyama, Takaaki Nishioka, Ryohei Kanzaki, Yukio Ishikawa
Organizer
International Congress of Entomology
Place of Presentation
Orlando, Florida, USA
Year and Date
2016-09-25 – 2016-09-30
Int'l Joint Research