2016 Fiscal Year Research-status Report
妊娠期のストレス曝露が誘発する子の情動障害に対する抑肝散の応用
Project/Area Number |
16K18899
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Research Institution | International University of Health and Welfare |
Principal Investigator |
宮川 和也 国際医療福祉大学, 薬学部, 講師 (10453408)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 胎生期ストレス / ストレス適応 / 抑肝散 / 不安 / エピジェネティクス / ヒストン修飾 / microRNA / マウス |
Outline of Annual Research Achievements |
我々はこれまでに、胎生期にストレス刺激を負荷されたマウスでは、成長後、不安感受性の亢進やストレス適応形成が障害されること、また、これらが脳内セロトニン(5-HT)神経機能の異常に起因する可能性を報告した。さらに、胎生期ストレス刺激により惹起される不安感受性の亢進が、幼少期に抑肝散を慢性投与することで改善することを見出している。しかしながら、その作用メカニズムは未だ不明である。本研究では、抑肝散の胎生期ストレス誘発不安感受性亢進に対する改善効果のメカニズムを、脳内セロトニン神経系に着目して明確にすることを目的としている。 平成28年度では、胎生期にストレスにより惹起されるストレス適応障害モデルマウスの脳内5-HT神経機能分子の発現についてさらに、エピジェネティクス制御機構の変化を検証した。胎生期ストレス刺激によりストレス適応障害が惹起されたマウスの脳内5-HT神経機能分子の発現を検証したところ、中脳において、5-HT神経をはじめ、モノアミン神経において転写因子として働き、様々な機能分子の発現を制御するLmx1bの発現が減少していることを見出した。また、この発現変化がエピジェネティックな変化に基づくか否かを検証するために、中脳領域におけるヒストンアセチル化およびメチル化の変化について、Western blot法に従い広く検討したところ、胎生期ストレス負荷によりヒストンH3のメチル化が亢進し、成体期に軽微なストレスを慢性的に負荷することで、このメチル化がさらに亢進することを明らかにした。さらに、5-HT神経機能分子のmRNAの分解に関与するマイクロRNA16の前駆体(pre/pri miR-16)の発現が増加していることを見出した。 以上の結果から、胎生期ストレスにより惹起される脳内5-HT神経機能分子の発現異常は、少なくとも一部、エピジェネティックな変化に基づく可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成28年度では、胎生期にストレスにより惹起されるストレス適応障害モデルマウスの脳内5-HT神経機能分子の発現についてさらに、エピジェネティクス制御機構の変化を検証した。エピジェネティクス制御機構は多様であるため、多種の抗体を用いて幅広く確認を行ったが、28年度検討した中では、ヒストンH3およびH4のアセチル化に変化は認められなかった。一方、メチル化については、広くリジンのメチル化を反映する「抗pan methyl lysine抗体」で、ヒストンH3のメチル化が亢進していることを見出したものの、これまでに検討した中では、亢進しているメチル化部位を同定するには至っていない。亢進しているメチル化部位を定めてから、クロマチン免疫沈降法を行い、胎生期ストレス刺激により惹起される5-HT神経機能分子の発現とエピジェネティクス制御機構のダイレクトエビデンスの構築を目指す予定である。一方、mRNAの転写機構にのみに着目するのではなく、転写後修飾にも視野を広げて検討したところ、5-HT神経機能分子の転写後修飾を担うマイクロRNAであるmiR-16が胎生期ストレス刺激により発現亢進することを見出した。 上記のクロマチン免疫沈降は平成28年度より開始する予定であったが、開始が開始が29年度にずれ込んだ。よって、当初予定していた研究内容に若干の遅れがあるが、予定以上の知見を得るに至ったため、研究全体としては概ね順調に進展していると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度は、胎生期ストレス刺激により惹起される中脳ヒストンH3のメチル化に関して、詳細なメチル化部位の同定を行う。その上で、5-HT神経機能分子の発現変化とエピジェネティクス制御とのダイレクトエビデンスを、クロマチン免疫沈降法を用いて検証する。詳細なメチル化部位の同定に至らなかった場合については、広くリジンのメチル化を反映する「抗pan methyl lysine抗体」を用いて検討する。 さらに、胎生期ストレス刺激により惹起されるストレス適応形成障害が、抑肝散の幼少期慢性投与により緩和されるかを行動薬理学的に検討し、その分子基盤を分子基盤を平成30年度に明らかにするために、脳サンプルを採取し、準備をする予定である。
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Causes of Carryover |
平成28年度は予定通りの研究消耗品を購入し、352円が残った。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成29年度以降も健全な研究費使用を心がけ、28年度の残金352円も消耗品購入に充てる予定である。
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Research Products
(4 results)