2016 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
16K18906
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Research Institution | National Institute of Health Sciences |
Principal Investigator |
佐藤 直子 国立医薬品食品衛生研究所, 食品添加物部, 研究員 (70754034)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 沈香・伽羅 / 蛍光指紋 / 機器分析 / 品質評価 |
Outline of Annual Research Achievements |
現代でも多くの天然物の品質が熟練者の五官によって鑑別されているが,五官鑑別は主観的なうえ数値化も困難なため,その評価基準は科学的に曖昧である.また,試料の温度変化などによって生成する香りや味を鑑別対象とする天然物は,鑑別に時間を要するうえに試料を消費してしまう.そこで本研究では,誰にでも短時間で非破壊的に品質を評価できる客観的な評価法確立を試みる.今年度は,五官鑑別により評価されたさまざまな品質の沈香を対象とし,品質評価に関与している化合物を見出すことを目的として,網羅的な成分分析のための条件を検討した. 幅広い品質のサンプルに対する測定条件を検討するため,薬用沈香1種,聞香用沈香2種及び沈香の偽物(木材に香料を染ませて沈香ににせたもの)1種をサンプルとした.GC-MS及びLC-MS測定:低分子揮発性成分を測定するため,ジエチルエーテルで調製した試料溶液をGC-MSで,加熱により構造が変化し芳香を発すると考えられる成分を測定するため,メタノールで調製した試料溶液をLC-MSで,それぞれ測定した.得られたデータについて主成分分析を行ったところ,沈香とその偽物は明らかに異なるグループとして分けられた.沈香グループへの寄与が大きい化合物の中には,加熱により構造が変化し芳香が発せられると考えられているクロモン類と推定される精密質量をもつものも存在した.また,沈香で報告されている低分子揮発性成分も良好に分離・検出されており,沈香の成分分析としては適当な条件と思われた. 一方,蛍光分光光度計にて同サンプルの直接測定を試みたところ,蛍光指紋の検出はできたもののシグナル強度が低かった.サンプルの溶媒抽出試料を測定したところよりはっきりとした蛍光指紋が得られたことから,沈香サンプルの直接測定のためにはさらなる条件検討を行う必要があると思われた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は,五官鑑別により品質が評価された天然物について,誰にでも短時間で非破壊的に品質を評価できる客観的な評価法確立を試みることを目的としている.今年度は,五官鑑別により評価されたさまざまな品質の沈香を対象とし,品質評価に関与している化合物を見出すために,網羅的な成分分析のための条件検討を予定していた.幅広い品質のサンプルに対する測定条件を検討するため,薬用や聞香用のように用途の異なる沈香のほか,芳香のあるオイルを染ませた沈香の偽物などをサンプルとし,GC-MS,LC-MSおよび蛍光分光光度計による測定条件を検討した.GC-MS,LC-MSにおいては,ともに様々な成分ピークが検出され,多変量解析の結果沈香の品質評価に寄与すると思われる化合物ピークも見出されたことから,沈香の成分分析として適当な条件が設定されたと考えられた.一方,蛍光分光光度計による蛍光指紋の測定では,サンプルを直接測定した場合シグナル強度が小さく,さらなる条件検討が必要と思われた.以上の進捗状況から,おおむね順調に進展しているといえる.
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き,五官鑑別により品質が評価された天然物について,誰にでも短時間で非破壊的に品質を評価できる客観的な評価法を探索する.沈香については,蛍光指紋測定条件をさらい検討したのち,伽羅を含む12の検体について今年度検討した条件にて網羅的な成分分析を行う.得られたデータについて多変量解析を行い,五官鑑別による品質評価に寄与している成分を探索する. また,沈香のほかにも五官鑑別により品質が評価された天然物について同様の検討を行い,最終的に蛍光指紋を用いた非破壊的な品質評価が可能か検討する.
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Causes of Carryover |
2月上旬から産休・育休に入り研究期間が当初の予定より短くなったため,2ヶ月分の未使用額が生じた.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度以降,今年度予定の蛍光分光光度計の条件検討をもう少し行わなければならない.今年度の検討で,測定には薄手の石英版2枚を合わせて用いることが有効であることが判明したので,多数検体の測定を迅速に行えるよう,石英版の購入に充てたい.
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