2016 Fiscal Year Research-status Report
抗がん薬の苦味による臓器特異的なP-gpの機能亢進メカニズムと抑制方法の探索
Project/Area Number |
16K18956
|
Research Institution | Takasaki University of Health and Welfare |
Principal Investigator |
矢野 健太郎 高崎健康福祉大学, 薬学部, 助手 (40644290)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | P-糖タンパク / トランスポーター / 消化管 / 苦味受容体 / 消化管ホルモン / 足場タンパク / 即時的調節機構 |
Outline of Annual Research Achievements |
経口から摂取された物質の主要な吸収部位である小腸は、苦味物質に曝されると9時間後に排出系トランスポーターのひとつであるP-糖タンパク (P-gp) の発現量を増加させることが報告されている。しかしながら、9時間後には多くの物質が既に生体に侵入し終えていると考えられ、防御機構としては不完全である。そこで、苦味物質を感知してから即座にP-gpの機能が亢進する別のメカニズムが存在するのではないかと考え、検討を行なった。まず、ヒト結腸がん由来細胞であり消化管吸収の検討で繁用されるCaco-2細胞に、苦味物質であるフェニルチオカルバミド (PTC) を暴露した。その結果、暴露90分後にP-gpの基質薬物であるrhodamine 123 (Rho123) の細胞内蓄積量の低下と、掃き出し増加が確認され、総発現量の上昇を介さないP-gpの機能亢進が認められた。さらに、PTCによって分泌される消化管ホルモンであるコレシストキニン (CCK) を暴露したときには、30分後に同様の機能亢進が認められた。また、CCK阻害剤を前処理した後にPTCを処理すると、P-gpの機能亢進が消失した。これらのことから、PTCによるCCK分泌増加を介して、即時的にP-gpの機能が亢進し得ることが示唆された。加えて、Caco-2細胞にCCKを暴露するとP-gpの細胞膜上における発現量の顕著な上昇が認められ、このときにP-gpの膜上発現を支えるezrin, radixin, moesin (ERM) と呼ばれる足場タンパクが細胞膜上で活性化していた。したがって、CCKによるP-gpの機能亢進には、ERMタンパクの活性化を介した細胞膜上の発現量の増加が関与しているものと考えられた。(Journal of Pharmaceutical Sciences 投稿中)
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
28年度では、抗がん薬の苦味による即時的なP-gp機能調節が存在するか否かと、そのメカニズムを明らかにするため、①抗がん薬によるP-gpの輸送機能変化、②抗がん薬によるP-gpの局在とERMの活性変化を検討計画とした。本年度の目的が、抗がん薬の苦味によって苦味受容体が刺激されることが前提となっていたため、まず苦味受容体や分泌細胞としての性質をCaco-2細胞が有しているのかを確認するとともに、その受容体を直接刺激する物質がP-gpの機能を即時的に亢進し得るか否かについて検討した。Caco-2細胞において、苦味受容体のひとつであるT2R38および、消化管ホルモンのひとつであるCCKを分泌する細胞のマーカーとしてクロモグラニン、CCKを感知する受容体であるCCK-R、それぞれのmRNAが発現していることを確認した。そこで、PTCによってT2R38を刺激したときの P-gp 基質薬物の輸送変化を確認したところ、PTC暴露90分後にP-gpの輸送機能が亢進していた。さらに、T2R38刺激後に分泌されるCCKをCaco-2細胞に直接暴露したときには、僅か30分後にP-gpの輸送機能の亢進が確認された。また、PTC刺激によるP-gpの機能亢進は、CCK-Rの阻害剤によって消失した。したがって、P-gpの機能亢進は、僅か数十分の苦味刺激およびその下流因子であるCCKの暴露によって、即時的に引き起こされることが明らかとなった。また、そのメカニズムのひとつとしてP-gpの発現量を確認したところ、細胞全体では変化が見られなかったものの、細胞膜上では顕著に増加していた。またこのとき、P-gpの細胞膜上発現を支えることが既に我々と他の研究者が報告されている活性化型のERMタンパクが、細胞膜上で増加していることも明らかにした。以上より、当初の予定はおおむね順調に進展していると考えている。
|
Strategy for Future Research Activity |
当初の計画どおり、苦味刺激によるP-gpの機能亢進メカニズムの解明を目的として、抗がん薬によるP-gpの機能亢進における苦味受容体 (T2R38) の関与について検討する。抗がん薬は、既に消化管P-gpの膜上発現を誘導することが報告されているエトポシドを使用する。細胞は、苦味受容体T2R38の発現が確認され、この受容体を刺激する薬物によってP-gpの機能亢進が確認されたCaco-2細胞を用いる。Caco-2細胞の苦味受容体の遺伝子発現をsmall interfering RNA (siRNA) あるいはclustered regularly interspaced short palindromic repeats/CRISPR associated proteins (CRISPR-cas9) により抑制し、エトポシドによるP-gpの膜上発現の誘導が抑制されるかを検討する。並行して、抗がん薬によるRadixinの活性化シグナルの解明のため、A. 活性化シグナル分子の定量、B. 活性化シグナル分子各々の阻害薬の効果について明らかにする。A. については、ERMタンパクの活性化に関わるRhoAやROCKといったシグナル分子群に着目し、これらのタンパク質発現量および活性化 (リン酸化) 状態をWestern blotting法により確認する。B. については、RhoAあるいはROCKの阻害薬 (ロスバスタチンやファスジル) を添加することで、エトポシドによるP-gpの機能変化およびP-gpとRadixinの膜上発現量の変化を評価する。 29年度末までには、抗がん薬の苦味によってもP-gpの輸送機能が亢進することに加え、そのメカニズムとして「リン酸化シグナルによって足場タンパクが活性化され、細胞膜上におけるP-gpの発現量が増加する」ことを示すことができるものと考えられる。
|