2016 Fiscal Year Research-status Report
定説を覆す電位依存的制御メカニズムを有するNa+チャネルの光生理学的解析
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16K19000
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Research Institution | National Institute for Physiological Sciences |
Principal Investigator |
下村 拓史 生理学研究所, 分子細胞生理研究領域, 助教 (50635464)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 膜電位依存性イオンチャネル / Na+チャネル / 電気生理学 / 膜タンパク質 / 光生理学的解析 / Two-pore Na+ channel / TPC / voltage-gated channel |
Outline of Annual Research Achievements |
Two-pore Na+ channel (TPC)は、同一分子内に電位依存性カチオンチャネルに共通する基本単位を2つ持つ。TPCがこのようなリピート構造を持つ意義を明らかにするため、以下の実験を行った。手法としては、ツメガエル卵母細胞を発現系とし、二電極膜電位固定法によりXenopus tropicalis由来のTPC3 (XtTPC3)の電気生理学的解析を行った。 (1) XtTPC3は高電位刺激を数秒間与えることで電流量が顕著に増大するという特徴的な電位応答性を持つ。解析の結果、この現象は高電位刺激によってTPC3自体の電位依存性が変化するためであることが解った。さらに、この電位依存性変化は特定のホスホイノシチド(PI)に依存すること、および、このPIがリピートIに結合することを示唆する結果を得た。この結果からは、リピートIがPI依存的な活性制御に特化していることが示唆される。また、電位依存性に重要なS4へリックス上のアルギニン残基への変異をリピートIとIIの両方において試したところ、リピートIIへの変異は電位依存性を大きく変化させるのに対し、リピートIの場合はほとんど影響がないことが解った。これらの結果から、リピートIとIIの役割には違いがあることが示唆された。 (2) 膜電位固定下化学蛍光検出法(voltage clamp fluorometry; VCF)をXtTPC3に適用し、リピートIIの膜電位依存的な構造変化をリピートIのそれと区別して検出することを試みた。方法としては、膜電位感知に主たる役割を果たす部位(S4へリックス)にシステイン変異を導入し、蛍光性システイン修飾試薬でラベルして蛍光強度変化が観察できるかどうかを調べた。変異導入残基のスクリーニングの結果、リピートIIのS4へリックスの特定の残基において、電位依存的な蛍光強度変化を検出することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでTPC3はTPC1および2と異なりPIにより影響を受けないとされていたが、本研究によってTPCファミリーはすべてPIによる調節を受けることが明らかになった。これはTPCの研究分野にとって大きな発見といえる。また、VCF法により、リピートIIの動的構造変化をリピートIと区別して捉えることにも成功した。通常のポア電流の解析のみでは2つのリピートの構造変化を区別することは困難である。2つのリピートを持つ意義を明らかにするためにはこの蛍光強度変化の検出が必要不可欠であったため、この結果は今後の詳細な実験を行うための大きな前進であると考えている。 当初の計画において、TPC1および2についても解析を行うことも考慮に入れていたが、TPC3がPI感受性という興味深い特性を持つことがわかったため、TPC3のみを主たる対象として計画を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
蛍光性システイン修飾試薬を用いたラベル化に成功してはいるが、ラベル化効率に問題が残るため、近年VCFに用いられ始めた非天然蛍光アミノ酸(fUAA)によるXtTPC3のラベル化を目指す。これまでの結果から、大きな蛍光強度変化を示すラベル残基について見当がついているので、同じ残基をfUAAに置換することで容易に蛍光強度変化を検出できると想定している。現在、fUAA挿入に必要な改変tRNAとligation酵素をコードするプラスミドDNAおよびfUAA自体の注入量などについて、実験条件の最適化を行っている。蛍光検出に成功したのち、それぞれのVSDの電位依存性の違いなどを解析することで、2つのリピートの役割の違いについてより詳細な情報を得ることを目指す。また、fUAAは任意の場所に挿入することができるので、前述のPI結合領域にfUAAを挿入することでPI結合に伴う構造変化をより直接的に捉えることも計画している。
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Causes of Carryover |
本年度は特にXtTPC3のPI感受性についての解析など、通常の電気生理学的手法を用いた実験に当初予定よりも時間を割いたため、計画より必要額が抑えられた。次年度はfUAAを使用したVCF法の実施など詳細な解析を進めるため、使用額を翌年度分と合算して増額する。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
本年度と同様に分子生物学的・電気生理学的実験に必要な基本的な試薬・消耗品の購入にあてる。さらに、本年度はVCFに必要なfUAAの購入額を増額する予定である。
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