2017 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
16K19040
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Research Institution | Nagasaki University |
Principal Investigator |
今村 優子 長崎大学, 医歯薬学総合研究科(医学系), 特任研究員 (50610937)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | Swi/Snf / Brg1 / Snf5 / 癌 |
Outline of Annual Research Achievements |
ATP依存性クロマチンリモデリング因子であるSwi/Snf複合体には、ATP分解酵素としてBrg1又はBrmを含む二種類が存在しているが、二つの複合体の機能的な違いは明らかになっていない。そこで、本研究ではBrg1-Swi/Snf複合体とBrm-Swi/Snf複合体の生理学的機能を明らかにすることを目的としている。また、Swi/Snf複合体の構成因子は癌の20%以上で変異又は欠失が同定されていることから、癌抑制因子として働くと考えられている。ゆえに、Swi/Snf複合体の癌における制御機構の解明は、遺伝子転写をターゲットにした抗癌剤の開発へと繋がるものである。本年度は、1)Brg1-Swi/Snf複合体とBrm-Swi/Snf複合体の精製、2)癌の悪性化における Swi/Snf複合体の役割、の二点についての解析を行った。 1)Brg1-Swi/Snf複合体が正常細胞と癌細胞とで構成因子に違いがあるかを解析するために、ヒト胎腎細胞HEK293細胞とHela細胞にFlag-HA-Brg1を発現させ、Brg1-Swi/Snf複合体を精製し比較した。 2)Brg1とSnf5は癌細胞において変異や欠失が多数見つかっていることから、英国サンガーゲノムデータベースを用いて解析を行った。癌細胞において高頻度で変異が入る箇所を解析し、癌変異型Brg1とSnf5をそれぞれ作製した。この癌変異型Brg1とSnf5を用いて、癌化におけるBrg1-Swi/Snf複合体の役割を調べた。 3)抗癌剤のスクリーニングに使用するために、Luciferaseを付加したBAF155を発現させ、BAF155-Luciferaseを含むBrg1-Swi/Snf複合体を精製した。精製した複合体を用いて、Luciferase活性を測定する系を確立した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
1)Swi/Snf複合体の構成因子は、多くの癌で変異や欠失が同定されている。癌変異又は欠失を含むSwi/Snf複合体が、正常な複合体と機能的な違いがあるかは明らかにされていない。そこで、ヒト胎腎細胞HEK293細胞と癌細胞であるHela細胞にFlag-HA-Brg1を発現させ、Brg1- Swi/Snf複合体を精製し比較した。その結果、Brg1- Swi/Snf複合体に含まれている主要な構成因子に違いはなかったが、サブユニットの種類に変化がある可能性があるため、現在タンパク質の同定を行っている。 2)ATP分解酵素であるBrg1と主要な構成因子であるSnf5は癌細胞において変異が多数同定されており、特にSnf5はラブドイド腫瘍の原因遺伝子である。各変異型は英国サンガーゲノムデータベース(COSMIC:Catalogue of somatic mutations in cancer)を用いて、探索した。Brg1の変異型としては、癌細胞において頻度の高い変異であるT910M、G1232S、R885Cを、Snf5の変異型としてはR201L、R377L、R158Qを導入した癌変異型Brg1とSnf5を作製した。現在、作製した癌変異型Brg1とSnf5は培養細胞に発現させ、癌変異型Swi/Snf複合体の精製を行っている。 3)癌細胞におけるクロマチン構造変換を伴う転写機構をターゲットにした抗癌剤のスクリーニングを行うために、Luciferaseを付加したBAF155をFlag-HA-Brg1発現細胞に発現させ、BAF155-Luciferaseを含むBrg1-Swi/Snf複合体を精製した。精製した複合体の結合を阻害する薬剤は有効な抗癌剤になると考えられる。そこで、作製した複合体を用いてLuciferase活性を測定した結果、阻害の有無で活性が変化することを確認した。
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Strategy for Future Research Activity |
来年度は、ChIP-seqやRNA-seqなどの網羅的な解析を行うことで、癌変異型のBrg1-Swi/Snf複合体と協調的に働く新規の転写因子を同定し、癌におけるSwi/Snf複合体の転写制御メカニズムを明らかにする。 1)引き続き、癌変異型Brg1とSnf5を含むSwi/Snf複合体を精製し、構成因子に違いがあるかを比較する。また、癌変異型Swi/Snf複合体が転写における役割に影響があるかを調べるために、特異的に結合している転写因子の有無を確認する。癌変異によりSwi/Snf複合体の転写制御領域に変化があるかを調べるために、ChIP-seqによりそれぞれの複合体と結合するDNA領域を網羅的に解析する。解析結果を基に、癌変異型Brg1-Swi/Snf複合体と野生型Swi/Snf複合体の標的遺伝子の違いを比較し、活性又は抑制する転写因子を同定する。 2)癌変異型Brg1又はSnf5高発現株を作製し、RNA-seqを行うことでmRNAやmiRNA量の変化を網羅的に解析する。また、癌変異型をもつBrg1又はSnf5のターゲット遺伝子を特定し、協調的に働く転写因子の候補因子を探索する。 3)癌変異型Brg1又はSnf5高発現株における腫瘍形成能への影響を調べる。癌変異型をもつBrg1又はSnf5をNIH3T3細胞に高発現し、腫瘍形成能をソフトアガープレートにおけるコロニー形成を調べることにより測定する。 4)前年度に作製したBAF155-Luciferase活性を指標とした抗癌剤のスクリーニング系を用いて、薬剤候補物質の探索を行う。
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Causes of Carryover |
本年度使用予定額は最大限かつ効率的に使用したが、その端数が次年度使用額として残っている。 次年度では、癌変異型Brg1又はSnf5を発現させた細胞の腫瘍形成能を測定するための実験に必要な培地の購入に充てる。
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