2016 Fiscal Year Research-status Report
上皮間葉転換におけるオートファジーの病態生理学的位置づけの解明
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16K19103
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Research Institution | Tokyo Medical and Dental University |
Principal Investigator |
吉田 剛 東京医科歯科大学, 難治疾患研究所, 日本学術振興会特別研究員 (00732405)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | がん幹細胞 / 上皮間葉転換 / TGF-β / 頭頚部扁平上皮癌 / 舌癌 / 3次元培養 / スフェロイド / オートファジー |
Outline of Annual Research Achievements |
上皮間葉転換(epithelial-mesenchymal transition; EMT)とは、上皮系組織に由来する腫瘍細胞が細胞接着性や極性を喪失し浸潤・転移を促進する形質を獲得する現象である。EMTは個体発生における細胞遊走や慢性炎症における線維化にも関わっているが、早期に遠隔転移・多臓器播種を呈する難治性腫瘍の治療という観点から重要視されている(J Clin Invest.2009;119:1420-1428.など)。また、微小残存病変が遅発性再発の原因となりうる根底には、単一の細胞からでも腫瘍組織を構築することのできる癌幹細胞の存在が問題視されている。癌幹細胞は、正常の組織幹細胞と同様に自己複製能や微小環境における栄養飢餓、酸化ストレス、慢性炎症といったさまざまな刺激に抵抗性を発揮することが知られている(Cancer Sci.2016;107:5-11.など)。
そこで申請者らは、舌がん細胞におけるオートファジーとEMT(上皮間葉転換)との関連性について検証を行った。舌がん細胞株HSC-4およびSASは、TGF-β処理において濃度、時間依存的にSlugと呼ばれるEMT誘導転写因子が活性化され、E-カドヘリンなどの接着分子の発現が低下するのと同時に中間径フィラメントであるビメンチンの発現が顕著に増加していた。TGF-β処理した際にオートファジーの指標であるLC-3 IIの増加、p62/SQSTM1の低下が認められるかどうか検証したが、有意な変化は認めなかった。また、3次元培養におけるスフェロイド形成能を比較したところ、既に間葉系の性質を部分的に有しているSAS細胞では培養を早期にスフェロイドが形成され10日目には中心壊死を伴う巨大化を認めた。更に、事前にSAS細胞をTGF-β処理することで、スフェロイド形成能が高まることが判明した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ヒト舌がん細胞の上皮間葉転換という形質変化におけるオートファジーの役割について、EMT誘導剤であるTGF-βを用いて、オートファジー活性化が起こるかどうかを検証することができた。オートファジーは分解すべき基質を隔離膜から生じるオートファゴソームという脂質二重膜構造で包み込んで分解するが、バフィロマイシンやクロロキンはリソソームとの融合を阻害することでオートファジー-リソソーム経路を阻害する。こうした阻害剤をTGF-β処理と組み合わせながら、選択的オートファジーに必須の分子であるp62/SQSTM1やオートファジーの指標であるLC3 conversionについて検証することができた。また、3次元培養を駆使してスフェロイド形成能に反映されるステムニス(がん幹細胞らしさ)について実験系を構築することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
ユビキチン・プロテアソーム分解経路もSlugやビメンチンの発現量制御に影響しているため、今後、TGF-β処理前後でのオートリソソームのマーカー分子であるLAMP2などとの共局在を細胞蛍光免疫染色で検証する予定である。また、クロロキンやバフィロマイシンA1自体の細胞毒性を考慮して、shRNAトランスフェクションやCRISPR-Cas9システムによる遺伝子改変によりオートファジーに必須の分子であるAtg5などを欠損した亜細胞株を作製していく。これらの遺伝子改変細胞株を用いてTGF-βに対するEMT感受性などを再検証する予定である。さらに、HSC-4細胞と比較してSAS細胞は既に間葉系の形質を部分的に有している。実際に、定常状態におけるSlugの発現量をウェスタンブロットにて比較すると、HSC-4細胞では検出限度以下であるのに対してSAS細胞では高発現を認めた。そこで、3次元培養におけるスフェロイド(細胞塊)形成能を比較したところ、HSC-4細胞では培養開始して10日経過してやっと直径100-200μmのスフェロイドが形成されるの対して、SAS細胞では培養を開始して4日で既に200-500μmのスフェロイドが形成され10日目には中心壊死を伴う巨大化を認めた。興味深いことに、3次元培養前にSAS細胞をTGF-β処理するというプライミングを行うことで、スフェロイド形成能が高まることが判明した。3次元培養におけるスフェロイド形成能が癌幹細胞としての性質を反映していることを踏まえて、さらなる3次元培養の解析も進めていく方針である。
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