2016 Fiscal Year Research-status Report
ピロリ菌の病原性遺伝子塊に存在するsRNAの機能解明
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16K19122
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Research Institution | Jichi Medical University |
Principal Investigator |
氣駕 恒太朗 自治医科大学, 医学部, 講師 (90738246)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | sRNA / ピロリ菌 |
Outline of Annual Research Achievements |
多くの病原細菌のゲノムには、病原性遺伝子塊(pathogenicity island, PAI)と呼ばれる、病原性の発揮に重要な領域が存在する。ピロリ菌(Helicobacter pylori)の病原性遺伝子塊はcag pathogenicity island (cagPAI)と称され、分泌装置とエフェクター病原タンパク質をコードし、これらの因子が宿主への定着や感染を可能とし、胃の疾患を引き起こしている。本研究では、ピロリ菌の病原性遺伝子塊に存在するsRNAの同定とその機能を明らかにすることを目指した。 平成28年度は、RNAが病原性遺伝子塊に存在していることを確認した。ピロリ菌のsRNAの発現をディープシークエンサーで網羅的に解析したところ、ピロリ菌の病原性遺伝子塊cagPAIから複数のsRNAが転写されていることを見出した。sRNAに対するノーザンブロッティング、リアルタイムPCRを行ったところ、複数のsRNA候補のうち一つのsRNA(sRNA-X)が強く発現していた。ディープシークエンサーの解析から候補に挙がっていた他のsRNAはmRNAの分解産物の可能性が示唆された。プロモーター欠失解析により、sRNA-Xのプロモーター領域を同定することに成功した。ピロリ菌では未だ報告は無いものの、ピロリ菌のsRNAも転写因子によってその発現が制御されていることが予想された。また、同定されたプロモーター領域は強く保存されていた。 sRNAの標的は、RNAもしくはタンパク質であることが報告されている。sRNA-Xの欠損変異株を作製し、ディープシークエンシングにより標的RNAの同定を試みた。しかしながら、野生株とsRNA-X欠損株では転写量に差が見られなかった。このため、sRNA-Xの標的はタンパク質と考え、免疫沈降法とLC/MS/MSによりsRNA-Xの標的を見つけ出す予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成28年度は、RNAが病原性遺伝子塊に存在していることを確認することに成功した。ピロリ菌sRNAのディープシークエンサーでの発現解析からは、ピロリ菌の病原性遺伝子塊cagPAIから複数のsRNAが転写されているのではないかと思われたが、リアルタイムPCRとノーザンブロッティングの結果から、そのうちの一つのsRNA(sRNA-X)のみがsRNAとして発現していることが確認された。さらに、プロモーター欠失解析により、sRNA-Xのプロモーター領域を同定することにも成功し、そこに結合する因子が予測されている。このため、当初の計画の(A)sRNAが病原性遺伝子塊に存在していることを確認する、(B)sRNA-Xの発現メカニズムを解明するまではおおよそ進んだ。 sRNAの標的はRNAもしくはタンパク質であることが報告されているので、sRNA-Xの欠損変異株を作製し、ディープシークエンシングにより標的RNAの同定を試みた。しかしながら、野生株とsRNA-X欠損株では転写量に差が見られなかった。また、sRNA-Xを強制的に発現させたピロリ菌も作製し、RNA-seqを行ったがそれでも野生株との違いが確認されなかった。sRNAはRNAを標的とすることが多いため、これは予想外の事実であった。このため、3つ目の実験計画である(C)sRNA-Xの標的遺伝子を同定するは、難航する可能性も考えられる。最後の実験計画である(D)sRNA-Xのin vivo感染における機能解析を行うは、既にsRNA-Xの欠損変異株が作製が終わっているので準備は整っている。 このような理由から、sRNA-XがRNAを標的としていない等の予想外の事実が確認されたものの、本研究計画はおおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
sRNA-Xの標的遺伝子を同定するためにRNA-seqを行ったが、標的遺伝子はmRNAには見つからなかった。この結果から予想するに、sRNA-Xの標的はmRNAではなくタンパク質である可能性が高い。RNAのタンパク質標的を同定する方法はいくつか報告されているが、最もよく使用されているMS2-tagの手法を用いる。sRNA-XにMS2 aptamerを結合させた分子を作製し、MS2-MBPビーズによりRNAプルダウンを行う。結合してきたタンパク質をLC/MS/MSにより解析し、sRNA-Xの標的を見つけ出す予定である。また、細菌のsRNAは、sRNAのコードされている領域に隣接したタンパク質に結合する例がいくつか報告されているため、特にcagPAIにコードされているタンパク質に着目しつつ解析を行う。 sRNA-X欠損株を、本菌の慢性感染モデル動物であるスナネズミに感染させる。ピロリ菌感染を行ったスナネズミは2ヶ月後には重度の胃の炎症を生じることが知られている。そのため、感染2ヶ月後の定着菌数、炎症の重症度、胃の病態を観察し、本菌感染が原因の胃疾患におけるsRNA-Xの意義を考察する。炎症の重症度においては、スナネズミの炎症マーカーであるKC(keratinocyte-derived chemokine)をリアルタイムPCR法にて測定する。また、sRNA-Xがピロリ菌の慢性感染による腫瘍の形成や腸上皮化生等の病態にも影響を及ぼす可能性があるため、sRNA-X欠損株をスナネズミに8ヶ月程度長期感染させた胃標本の病理解析も行う。標的タンパク質が既知のものであればその遺伝子機能と病態形成の関連性について考察する。また、標的遺伝子が未知のものであった場合は可能な限りその機能解析を行う。
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Causes of Carryover |
該当年度に所属の異動があり、若干ではあるが研究計画が後ろにずれ込んだ。また、sRNAの標的分子がRNAであると予想していたが実際はそうではなかったため、当初行う予定であったリアルタイムPCRや遺伝子組換え実験がなくなったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
sRNAの標的分子がRNAであると予想していたが実際はそうではなかったため、sRNAの結合相手を探索する必要がある。これにはLC/MS/MSを用いる予定である。さらに結合を確認するために免疫沈降、ウェスタンブロッティングを行う。これらの実験に次年度使用額を計上する。
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Research Products
(2 results)