2016 Fiscal Year Research-status Report
百日咳における発作性咳嗽に関連する菌側遺伝子の機能解析
Project/Area Number |
16K19124
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
中村 佳司 九州大学, 医学研究院, 学術研究員 (60706216)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 百日咳 / 発作性咳嗽 / 気管支敗血症菌 / 感染動物モデル |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の最終的な目的は、ボルデテラ属の百日咳菌の感染によって起こる百日咳の主症状である発作性咳嗽の原因因子を同定することにある。これまでに申請者らは、咳嗽発作を再現する感染動物モデルを確立して咳嗽を定量化する方法を樹立(感染咳嗽試験)し、さらに咳嗽発作に関連する細菌側の遺伝子(cough X: cx)を同定した。まず、未確定であったcx遺伝子産物であるCXの翻訳開始コドンの位置を決定した。感染動物に咳嗽発作を引き起こさない自発性変異株(A株)の染色体上では、cx遺伝子全長576塩基の254番目の塩基欠失によるフレームシフトが起こっていた。野生株cx遺伝子の252番目の直後に終止コドンを挿入したC末ドメイン破壊株を作出し、感染咳嗽試験を行ったところ、cx遺伝子全長欠失株と同様に咳嗽発作の回数が野生型と比べて減少した。このことから、少なくともCXのC末端側のドメインが菌体による感染動物の咳嗽発作の惹起に必要であることが示唆された。これまでに、感染動物に菌体破砕液を投与した場合も生菌投与と同様に咳嗽発作が起こることが明らかとなっている。cx遺伝子全長欠失株の菌体破砕液は、野生型と同程度に投与動物に咳嗽発作を引き起こした。また、CX組み替えタンパク質を発現する大腸菌の菌体破砕液は投与動物に咳嗽発作を引き起こさなかった。これらのことから、CXが咳嗽の直接原因である可能性が低いこと、試験管培養液中では感染動物体内とは異なり、CX以外にも咳嗽発作の原因因子(咳嗽因子)の発現を制御する機構が存在する可能性があることが示唆された。この一方で、ボルデテラ属菌の主要な病原因子の発現制御に寄与する二成分制御系因子、BvgASを不活性化させた菌の破砕液は投与動物に咳嗽発作を引き起こさなかった。このことから、咳嗽因子の試験管培養液中における発現がBvgASによって制御されていることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
感染動物に咳嗽発作を惹起する菌側因子CXについて、機能ドメインを推定した。さらに、cx遺伝子全長欠失株の菌体破砕液およびCX組み替えタンパク質を用いた解析から、CXは動物に感染した菌体内で咳嗽発作の直接的な原因因子の発現を制御している可能性が示唆された。また、上述の咳嗽因子は培養菌体内において二成分制御系因子BvgASによって制御されていることが示された。CXの機能推定に加え、咳嗽因子の同定にとって重要な知見が得られたことから、研究課題は順調に進展されていると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
概要の項で述べたように、CXは真の咳嗽因子の発現を制御することで間接的に咳嗽発作に関与している可能性が考えられた。さらに、BvgASによる培養菌体内における咳嗽因子の発現制御も示された。これらのことから、次年度は当初の計画を変更し、CXあるいはBvgASの下流にあると考えられる咳嗽因子の探索を行う。具体的には、BvgASの活性化および不活性化条件で菌体を培養し、各条件を比較して発現が大きく変化する遺伝子をマイクロアレイによってリストアップする。菌体破砕液によって引き起こされる咳嗽発作の原因が菌体感染と異なる場合、CXは培養菌体内においても感染時に誘導される真の咳嗽因子の発現を制御している可能性がある。この仮定に基づき、培養条件下でcx遺伝子の下流で転写制御を受ける遺伝子もリストアップする。2つのリストから咳嗽発作に関与する可能性のある遺伝子の候補を選出し、候補遺伝子破壊株を用いた感染実験、あるいは菌体破砕液投与実験を行い、咳嗽発作の原因因子の同定に迫る。
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