2017 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
16K19127
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Research Institution | Gifu Pharmaceutical University |
Principal Investigator |
高橋 圭太 岐阜薬科大学, 薬学部, 助教 (50634929)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 乳酸菌 / 粘膜ワクチン系 / パイエル板 / アジュバント / DNAワクチン |
Outline of Annual Research Achievements |
経口的に抗原を接種する経口ワクチンは、全身性免疫に加えて、現行の注射型ワクチンで誘導が困難な粘膜免疫を誘導できる新たなワクチン接種方法として注目されている。経口ワクチンの課題の一つに、消化管内での抗原の分解に伴う抗原性の低下が挙げられる。本研究では、ワクチン抗原を消化管環境中での分解から保護し、効率的な免疫組織への送達を可能とするベクターとして乳酸菌を利用する経口ワクチン系の開発を進めており、平成29年度までに以下の1-4を明らかにした。 1.黄色ブドウ球菌由来のヌクレアーゼをモデル抗原として産生する乳酸菌を作製した。ヌクレアーゼ産生乳酸菌をマウスに経口投与することで、ヌクレアーゼ特異的な血清IgG抗体(全身性免疫の指標)および糞便IgA抗体(粘膜免疫の指標)産生を誘導可能であることを明らかにした。 2.小腸の主要な免疫組織であるパイエル板への抗原取込み細胞として知られるM細胞に結合する分子(FimHおよびOmpH)を産生する乳酸菌を作製した。これらパイエル板への指向性を有する乳酸菌を用いることにより、パイエル板への効率的な抗原輸送が可能となり、抗原特異的免疫誘導の向上が可能であることを明らかにした(論文投稿準備中)。 3.免疫賦活物質(アジュバント)としてサイトカイン(IL-12およびTSLP)を産生する乳酸菌を作製した。作製した乳酸菌の産生するサイトカインは生物学的活性を有しており、経口投与においてアジュバント作用を示した(論文投稿準備中)。 4.プラスミドDNAを保持する乳酸菌をマウスに経口投与することにより、プラスミドDNAがマウス小腸の細胞に取込まれプラスミドDNAにコードされた遺伝子の発現が起こること、このプラスミドDNA取込みの過程がパイエル板で起こる可能性が高いことを明らかにした(Biol. Pharm. Bull. 2018.)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では平成28年度にヌクレアーゼ産生乳酸菌の経口投与による免疫誘導の系を確立した。平成29年度には、この系を用いて、(1)腸管の主要な免疫組織であるパイエル板への指向性の付加、あるいは(2)免疫賦活物質(アジュバント)としてのサイトカイン産生能の付加により、ヌクレアーゼ産生乳酸菌の免疫誘導能を増強あるいは制御可能であることを明らかにした。 乳酸菌をベクターとして用いる経口ワクチン系の感染防御効果を検討するため、ヒトの病原細菌である腸管出血性大腸菌と同様の感染様式を有するマウスの病原細菌であるCitrobacter rodentiumのマウス感染モデルを用いた。Citrobacter rodentiumの感染に関わる腸管上皮細胞接着関連蛋白(Tir、EspB)をコードする遺伝子をクローニングし、乳酸菌に導入した。EspB、Tirの乳酸菌での発現を生化学的手法により確認した。しかし、その発現量はヌクレアーゼの発現量に比べ著しく低値であり、EspBあるいはTirを発現する乳酸菌をマウスに投与しても抗原特異的な抗体は検出できなかった。この点については、平成30年度に他の抗原蛋白の検討や蛋白発現量を向上させる方法の検討など改善が必要であると考えられる。 プラスミドDNAを保持する乳酸菌をマウスに経口投与することにより、プラスミドDNAがマウス小腸の細胞に取込まれプラスミドDNAにコードされた遺伝子の発現が起こること、このプラスミドDNA取込みの過程がパイエル板で起こる可能性が高いことを明らかにした(Biol. Pharm. Bull. 2018.)。 以上のように、本研究はおおむね順調に進展していると思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究成果を踏まえ、今後は以下の項目に記載した内容の検討を進める。 ①Citobacter rodentium感染モデルを用いた乳酸菌ワクチン系の有効性の評価:これまでに検討してきたCitrobacter rodentiumの細胞接着関連蛋白(Tir、EspB)は乳酸菌での発現が困難であることが示された。そこで、他の細胞接着関連蛋白(Intimin、EspA)の発現系を構築、乳酸菌での蛋白発現量の検討、マウスへの経口投与による免疫誘導の検討、Citrobacter rodentium感染モデルでの感染防御効果の評価を行う。また、パイエル板指向性、サイトカイン産生能をTirあるいはEspB発現乳酸菌に導入することにより、特異免疫の誘導が可能か、感染防御効果が向上するかを検討する。
②乳酸菌の経口投与による小腸細胞へのプラスミドDNAの輸送:これまでに乳酸菌を用いて小腸の細胞にプラスミドDNAを輸送することが可能であること、このプラスミド輸送がパイエル板で起こる可能性が高いことを明らかにしてきた。平成30年度には、プラスミドDNA輸送が起こる相手の細胞種(上皮細胞、樹状細胞、T・Bリンパ球)の同定、および抗原蛋白遺伝子をコードするプラスミドDNAの輸送によって抗原特異的な全身性および粘膜免疫の誘導が可能か検討する。
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Causes of Carryover |
(理由)Citrobacter rodentium由来抗原蛋白を発現する乳酸菌について、抗原蛋白量が想定していたよりも少なく、マウスを用いた免疫誘導も検出限界以下であったことから、この部分についての実験をさらに進めることができなかった為、未使用額が生じた。
(使用計画)Citrobacter rodentium由来抗原蛋白を発現する乳酸菌について、今後の研究推進の方策欄に記載した内容を進めるために使用することとしたい。
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