2016 Fiscal Year Research-status Report
らい菌の細胞内寄生分子機構の解明と臨床応用ための研究
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16K19204
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Research Institution | Teikyo University |
Principal Investigator |
Luo Yuqian 帝京大学, 医療技術学部, 研究員 (20772990)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | DNA microarray解析 / ハンセン病 / らい菌 / PPAR |
Outline of Annual Research Achievements |
ハンセン病は未だ世界では年間約20万人の新患が発生する重要な抗酸菌感染症であるが、その経過や治療効果を判定するための有効な臨床検査法は無く、治療が困難な例も少なくない。起因菌であるらい菌は、マクロファージのファゴゾーム内に寄生する典型的な細胞内寄生細菌であるが、申請者等はその寄生の分子機構を研究する過程で、らい菌の細胞内寄生に利用され、菌の生存状態や治療によって発現量が特異的に変動する宿主遺伝子を幾つか報告してきたが、らい菌感染による宿主遺伝子発現変化の全体像は未だ明らかではなく、より有用なbiomarkerが存在する可能性が残されている。そのような候補遺伝子の全体像を解明するため、THP-1細胞にらい菌の生菌と加熱死菌を加え、添加前と添加6時間及び48時間後の細胞からRNAを精製し、Agilent Whole Human Genome Oligo DNAマイクロアレイによるヒト全遺伝子の発現変化を網羅的に解析した。得られたDNAマイクロアレイのデータを、cluster解析に加え、GeneAnalytics (LifeMap Sicence, Inc) platformを用いて、gene ontology解析およびpathway解析を行った。その結果、peroxisome proliferator-activated receptors (PPARs)シグナルの標的遺伝子群が生菌感染のみに応答し、発現量の変動が48時間まで持続していることが明らかとなり、らい菌感染後の自然免疫抑制や脂質蓄積代謝に関与するpathwayの一つを解明することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画どおりにらい菌感染後の宿主遺伝子発現変化を網羅的に解析し、らい菌感染後宿主遺伝子変化の全体像を解明し、感染に特異的に変動するpathwayを抽出した。すなわち、DNAマイクロアレイデータのcluster解析で、宿主マクロファージの遺伝子発現がらい菌生菌のみによって48時間内に持続的に著しく変動することがわかり、らい菌の感染初期に起こる宿主遺伝子発現変化の全体像を解明した。この中で、脂肪細胞分化(adipocyte differentiation)マーカーとして知られており、脂質の生成や取り込み、輸送に働くperoxisome proliferator-activated receptors (PPARs)シグナルの標的遺伝子(ADRP, FABP4, ACSL1, CD36, APOE, APOC)のmRNA発現量がらい菌の生菌に強く誘導されることが明らかになった。らい菌が感染したマクロファージの細胞質に脂質滴が大量に蓄積することは古くから知られており、多菌型のハンセン病皮膚組織にこのような多数の典型的な大型の泡沫状マクロファージが常に認められる。今回の結果から、らい菌感染後PPARsシグナルが活性化し、らい菌の細胞内寄生に有利な脂質豊かな環境に寄与する可能性が考えられた。また、これら感染後特異的に変動する宿主遺伝子群の中に、ハンセン病の治療効果評価や予後の予測のbiomarkerとして有用な遺伝子が存在する可能性が高いと考えられた。
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Strategy for Future Research Activity |
DNA microarrayで著しく変動を示したperoxisome proliferator-activated receptors (PPARs)がらい菌によるマクロファージのfoam cell formationにおける役割を解明する。具体的には、らい菌感染による宿主遺伝子の発現変化をreal-time PCRとWestern blottingで確認する。また、らい菌感染後におけるPPARsの遺伝子発現量、タンパク発現量及び活性を評価する。PPARs拮抗薬がらい菌によるマクロファージ感染に与える影響を検討する。さらに、中国の研究協力者であるYang Degang医師の協力を得て、多菌型ハンセン病患者治療前後の皮膚スメアサンプルを収集する検体から精製したmRNAを用いて、検証されたPPARsシグナル標的遺伝子の実際の発現量をreal-time PCRにより評価する。治療反応性、らい反応の発症、末梢神経障害の程度などの臨床データと照合し多因子解析することにより、biomarkerの候補を選び出し、治療効果の判定や予後予測に用いることができる検査法の開発を行う。
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Causes of Carryover |
37,213円という軽微な残額であり、ほぼ計画どおりに執行された。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度も計画に沿って予算の執行に努める。
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