2016 Fiscal Year Research-status Report
陽子線治療における金属マーカーの線量分布に対する影響評価とその利用方法の検討
Project/Area Number |
16K19242
|
Research Institution | 福井県立病院(陽子線がん治療センター(陽子線治療研究所)) |
Principal Investigator |
中澤 寿人 福井県立病院(陽子線がん治療センター(陽子線治療研究所)), 陽子線治療研究所研究部門, 研究員(医学物理士) (70769603)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
|
Keywords | 陽子線治療 / 基準マーカー / 線量分布 |
Outline of Annual Research Achievements |
陽子線治療ではがん病巣を正確に照射するために極めて高い幾何学的精度が要求される。金属マーカーを病巣の指標にして治療する方法は病巣に対する位置精度を向上させるが、陽子線が金属マーカーと相互作用し線量分布に影響を及ぼすことが報告されている。しかし、その影響の詳細は、十分には検討されておらず、汎用の治療計画装置では過小評価されている可能性がある。本研究の目的は陽子線と金属マーカーの相互作用を精確に測定し、治療計画装置の線量計算アルゴリズムで金属マーカーの線量影響を考慮する手法を考案することである。 平成28年度は、国内で販売されている医療用の金属マーカーを購入し、水等価矩形ファントム内部、人体ファントムの肝臓部と前立腺部に、それぞれ金属マーカーを配置して、治療計画用CT画像と陽子線治療時の位置決めkV-X線画像を撮影した。いずれの条件においても、すべての金属マーカーの視認性を確認し、CT画像では金属マーカーと同一断面上ではアーチファクトを観察した。 この研究で、陽子線の線量分布を精確に測定するために使用するガフクロミックフィルムの陽子線への応答特性を測定した。3種類のエネルギーの陽子線を別々に照射し、フィルムの濃度変化と電離箱線量計による測定値から特性曲線を作成した。エネルギー依存性は認められず、フィルムが精確な線量測定に利用できることが確認できた。ところが、陽子線のピークの位置の乖離がみられたので、実験を繰り返したところ再現性が認められた。陽子線と金属マーカーの相互作用の測定には拡大ブラッグピークの部分を使用するので、ピークの位置の影響は問題ないと考えられるが、この原因究明のための追加実験を検討している。このため、金属マーカーによる陽子線の線量分布の変化を精確に測定する実験は、平成29年度当初から実施することとなった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
国内で臨床使用されている金属マーカー5種類8個を購入した。まず、基礎的検討として、水等価矩形ファントムに金属マーカーを配置し、陽子線治療計画に使用するCT画像と陽子線治療時の位置決めkV-X線画像を、実臨床を反映させた条件で撮影した。次に、人体ファントムを用いた検討を実施した。肝臓がんと前立腺がんの陽子線治療に金属マーカーを使用されているのを模擬して、人体ファントムの肝臓部と前立腺部に金属マーカーを配置して、同様にCTとkV-X線画像を撮影した。結果として、全ての金属マーカーは十分に視認可能であった。また、CT画像では、金属マーカーと同一断面上でアーチファクトが観察された。 この実験で、陽子線と金属マーカーの相互作用を精密に測定するために使用するガフクロミックフィルムを購入し、その陽子線に対する応答特性を評価した。始めにフィルムの水に対する阻止能比を計測し、水等価厚(0.37 mm/sheet)を算出した。次に、フィルム濃度と0.3ccセミフレックス型電離箱(TN31013)で測定した線量との関係性を求める実験を150、190、235MeVの陽子線を用いて行い、特性曲線を作成した。エネルギー依存性は認められず、フィルム濃度から線量値を精確に測定できることが確認できた。陽子線モノピークの深部線量百分率をフィルムで測定したところ、線量のパターンは0.3ccセミフレックス型電離箱の測定値と、良く一致したが、ピークの位置に2.5 mmの乖離がみられ、実験を繰り返しても、この事象が再現されたので、この原因を究明するための新規の実験方法を検討している。 金属マーカーによる陽子線線量分布の影響を測定する実験では、拡大ブラッグピークの範囲を使用するので、ピークの位置の影響は問題とならないと考えられ、平成29年度当初より計画していた金属マーカーを用いる実験を実施していく予定である。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成28年度の研究遂行上で生じた深部線量曲線の乖離という課題を解決するために、測定条件を見直し追加の測定を実施する。原因が判明しフィルムの精度が担保されたうえで、金属マーカーをファントムに装着しフィルムを用いて、陽子線と金属マーカーの相互作用を測定する。これを陽子線治療計画装置を用いて作成した線量分布と比較し、実測値を再現するために必要な治療計画装置上での対応措置を検討する。具体的には形状や電子密度を調整した適当な対象物を作成し、一般的に利用されている計算グリッドよりも細かいグリッドサイズで線量を計算することによって金属マーカーによって生じた線量のホットまたはコールドな領域を正確に計算する。さらに陽子線と金属マーカーの相互作用の原因・根拠となる物理過程をモンテカルロ法によるシミュレーションを用いて考察する。金属マーカーと陽子線の相互作用の物理過程を把握することにより本研究では実測していない他の金属マーカーについても陽子線との相互作用を一般化し推測可能になると考えられる。陽子線治療計画において金属マーカーの影響をモデル化することにより、日常臨床の線量計算の過程においても金属マーカーの影響を適切に評価し、より精確な線量評価が可能になると考えられる。
|
Causes of Carryover |
陽子線と金属マーカーの相互作用を精密に測定するために使用するガフクロミックフィルムを購入するための費用が残額の大半を占める。フィルムを購入しなかった理由はフィルムには使用期限があり、期限を過ぎるとフィルム表面に黒い斑点を生じ、測定結果が信頼できなくなるためである。実験の進行に合わせて、その都度購入する予定をたてていた。平成28年度は、フィルム、金属マーカー等、実験で使用する物品を購入するために時間を要したため、フィルムを用いた測定を開始する時期が遅れたこと。また、陽子線治療装置を臨床における患者さんのがん治療と併用しているため、研究で使用するために十分な時間を確保することが困難であったことがフィルムを用いた測定の進行に遅れを生じ、フィルムの購入数が当初の計画より少ない理由である。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成29年度は当初より計画していた金属マーカーを用いる実験を実施する。金属マーカー近傍の線量分布の影響を詳細に評価するために、フィルムを連続配置することを検討しており、大量のフィルムを消費する可能性がある。また、実験結果によって、研究計画書に記載していない物品を追加購入する可能性もある。
|