2016 Fiscal Year Research-status Report
自動抽出装置と質量分析計を用いた「生体試料中薬毒物の自動定量分析システム」の構築
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16K19294
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
草野 麻衣子 名古屋大学, 医学系研究科, 助教 (60733574)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 分析化学 / LC/MS/MS / GC/MS / 自動前処理装置 / 薬物抽出 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究初年度では、自動前処理装置「ATLAS-USIS」による液-液抽出法による生体試料中の薬物抽出法を構築し、評価を行った。法医中毒学的に重要であるベンゾジアゼピン系睡眠薬、三・四環系向精神薬、および覚せい剤などの麻薬などの薬物を対象成分とした。また、マニュアル操作抽出法との比較を行い、自動前処理装置の抽出効率の評価を行い、マニュアル操作抽出法による回収率と比較し遜色がない抽出効率が得られることが確認された。構築した自動前処理法を高速液体クロマトグラフィータンデム質量分析(LC/MS/MS)と組み合わせ、ATLAS-USISおよびLC/MS/MSによる血中薬物の一斉定量分析法を構築し、分析バリデーション(検出下限、定量下限、日内・日間変動等の評価)を行った。 さらに、法医中毒学においての薬毒物分析では対象成分によって多種の前処理法を用いるため、液-液抽出法以外の前処理法として、自動前処理装置による除タンパク法も検討した。前述の液-液抽出法で用いたものと同じ薬物を対象成分とし、抽出溶媒の選択や使用量、蒸発乾固の温度や時間等の抽出条件の最適化を行った。構築されたATLAS-USISによる除タンパク法をLC/MS/MSと組み合わせ血中薬毒物の一斉定量分析法を構築・評価し、用途に準じて薬物抽出法が選択可能な自動抽出~定量分析システムの構築を行っている。 一方、自動前処理装置を法医中毒学分野において汎用性の高いガスクロマトグラフ質量分析(GC/MS)とも組み合わせることにより、迅速・簡便な血中薬毒物のスクリーニング法の構築も行っている。その際、GC/MSでは脂質等の夾雑ピークによって薬物同定が困難な場合もあるため、薬物同定能の向上と装置への負担軽減を目的とした、ステロール系脂質除去法についても検討を行っている。 なお、初年度で得られた成果の一部は、日本法医学会にて発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度の主たる目的はおおむね達成できた。自動前処理装置による液-液抽出法の抽出条件や血液および抽出溶媒の使用量、さらに定量分析のために必要な内部標準物質の選択や添加量も最適化した。対象成分としたベンゾジアゼピン系睡眠薬、三・四環系向精神薬、覚せい剤等(30種類)を添加した全血試料からの薬物回収率は、3つの薬物を除き概ね70%程度であり、LC/MS/MS測定による定量下限は0.22~2.8 ng/mLと低濃度での定量分析が可能であることが確認できた。分析バリデーションの結果においても、確度(20%以内)・精度(10%以内)と良好な値を示した。また、ATLAS-USISの1検体あたりの前処理時間は約15分であり、連続処理の場合にはオーバーラップシーケンスによる時間短縮が可能であることから、多検体処理に極めて有効であり、分析者の多大な時間的負担の解消に貢献できる。これまでに得られた結果から、構築した定量分析システムは実務レベルでの有用性が極めて高いことが示唆された。 また、次年度の目標の一つである「自動前処理装置による除タンパク抽出法の検討」についても、すでに実験を開始している。抽出溶媒の検討を行ったところ、メタノールでは夾雑物の除去率が不十分であったため、分析装置への負担を考慮し、アセトニトリルを用いることに決定した。抽出条件などを最適化しLC-MS/MSによる定量分析法を構築した。マニュアル操作による除タンパク法を併せて行い、自動前処理装置の抽出効果を評価している。 これらの成果の一部については、国内学会で発表を行っている。
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Strategy for Future Research Activity |
上記で構築した自動前処理装置による除タンパク処理とLC/MS/MSによる一斉定量分析法について、初年度同様、分析バリデーションを実施し実務レベルにおいての有用性を評価する。また、ATLAS-USISを法医学教室や法中毒学の研究機関などで汎用性の高いGC/MSと組み合わせることによって、迅速・簡便な血中薬毒物のスクリーニング法の構築も行う。この際、既存のGC/MSの分析メソッドも分析時間短縮などの改良を行う。 GC/MSでは血液などの生体試料中に存在する脂質等の夾雑物が対象薬物ピークの同定の妨げになる他、脂質等の夾雑物が装置への負担の原因となる場合もある。そのため、薬物同定能の向上と装置への負担軽減を目的とした、ステロール系脂質除去法についても検討を行う。具体的には、脂質除去に用いる活性炭の形状、分量、処理時間等の最適化を行い、ステロール系脂質除去法の評価を行う予定であり、一部の実験はすでに実施を開始している。最終的には脂質除去処理をATLAS-USISの自動前処理シーケンスへ組み込み、GC/MSと組み合わせた血中薬毒物のスクリーニングシステムの構築および評価を行う。さらに、スクリーニングだけではなく定量分析法への拡張についても検討する予定である。最終的に、自動抽出~GC-MS及びLC-MS/MSによるスクリーニングおよび定量分析システム全体の評価を行う。 さらに、これまでは血液を対象生体試料として研究を進めてきたが、本年度の目的の一つである対象生体試料の拡張についても検討する。具体的には、肝臓などの臓器試料を用いてブランク臓器の破砕処理を行い、破砕したホモジネートに上記と同じ対象薬物を添加後、ATLAS-USISにおける液-液抽出または除タンパクを行い、GC/MSによるスクリーニング分析およびLC/MS/MSによる一斉定量分析を行う。
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Causes of Carryover |
当初購入を予定していた実験用の消耗品が国内在庫が無く海外取り寄せ品であったため、年度内の納品が困難となり、28年度の研究費に未使用額が生じたが、次年度に納入されるため、29年度に購入し、次年度に行う予定の研究計画と併せて実施する。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
翌年度分として請求した助成金と合わせ、次年度に行うステロール系脂質除去法の検討に必要な試薬および活性炭の購入に使用する。
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Research Products
(2 results)