2016 Fiscal Year Research-status Report
炎症性腸疾患の病態における腸管マクロファージ細胞内鉄動態異常の解明
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16K19365
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Research Institution | Kitasato University |
Principal Investigator |
豊永 貴彦 北里大学, 北里研究所病院, 医員 (30773634)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 炎症性腸疾患 / マクロファージ / 鉄 |
Outline of Annual Research Achievements |
1.炎症環境下における腸管マクロファージ(Mac)細胞内の鉄動態を把握するため、C57BL/6(WT)マウスにDSSを投与して急性腸炎モデルを作成した。腸炎急性期の腸管Mac細胞内では、ferritin, ferroportin-1の発現が蛋白レベルで亢進していたが、qPCRの結果、Slc40a1(ferroportin-1)の発現は腸炎急性期に一過性に上昇し、腸炎回復期には低下することが明らかとなった。同様の検討を、T細胞移入慢性腸炎モデルを用いて行った。腸管Mac細胞内への鉄蓄積持続が予測されたが、予想に反して腸管Mac細胞内のferritinは腸炎マウスにおいて低下していた。さらに、Slc40a1発現は腸炎マウスにおいて低下し、 ferroportin-1の転写調節因子であるNfe2l2の発現は亢進していた。これらの結果の解釈するためには、今回検討した解析時期(T細胞移入7週後)よりもさらに早期の段階から、鉄関連分子の動態を評価する必要がある。 2.Mac細胞内の鉄蓄積がサイトカイン産生能に与える影響について、Slc40a1 knock down(KD)骨髄由来マクロファージ(BMM)を用いて検討を行った。Ferrous sulfate 100μMを培地に加え、overnight incubation後にLPS刺激を行った。KD-BMMでは炎症性サイトカインの発現亢進が予想されたが、予想に反してKD-BMMではIl12b発現の低下が見られた。Il12bの発現低下はFS添加の有無に関わらず確認されたことから、この結果が細胞内鉄濃度に依存的な変化であるかどうかの検討を要すると考えている。 3.ヒト検体を用いた解析については、既に潰瘍性大腸炎の患者2名の手術検体よりCD33陽性Macを単離し、凍結保存している。今後も検体集積予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
Rag2欠損マウスを用いたT細胞移入慢性腸炎モデルにおいて、当初の予想と反した結果が得られた。すなわち、当初の予想では、慢性炎症環境下では腸管マクロファージ(Mac)細胞内には(急性期に見られた)鉄蓄積が持続すると推測していたが、予想に反してferritin発現は低い事が分かった。当施設での予備的検討において、Rag2欠損マウスに野生型T細胞を移入した後、7週間でほぼ確実に腸炎が生じ得る事が分かっていたため、同時期の解析を行ったが、これよりも早期の段階から経時的に鉄関連分子の動態を評価する必要が生じた。 さらに、既報(Zhang Z et al. Blood 2011)と異なり、Slc40a1の欠損はマクロファージにおける炎症性サイトカインの発現を亢進させず、むしろ低下させる結果が得られた。鉄非添加下に培養したknock downマクロファージにおいても同様の結果が得られたことから、この結果が細胞内鉄蓄積による変化であるのか、あるいは鉄非依存的な変化であるのかを評価する必要が生じた。 これらの予測外の結果から、遺伝子欠損マウス(Slc40a1, Nfe2l2)の購入、Rag2欠損マウスとの交配は延期とした。このため、現在までの進捗状況はやや遅れている。
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Strategy for Future Research Activity |
急性腸炎モデルでの追加検討を行いつつ、慢性腸炎モデルでの経時的な鉄関連分子の評価を行う。Western blottingによるferroportin-1の検出には、一定量のタンパク量を要するため、複数匹のマウスからCD11b陽性腸管マクロファージを単離しても検出に十分なタンパク量の確保が難しく、このため今後はFACSによる評価も検討する。 マクロファージ細胞内鉄とサイトカイン産生能とのin vitroにおける関連評価については、鉄キレート剤を用いた追加実験を予定している。これにより、得られた結果(Slc40a1 knock downによるLPS刺激後のIl12b発現低下)が鉄依存的な現象であるかどうかを明らかとする。さらに、最近 Nrf2がマクロファージにおける炎症性サイトカイン発現をdirectに抑制するという報告(Kobayashi EH et al. Nat Commun 2016)が見られるため、Slc40a1がNrf2発現に与える影響も検討する予定である。 これらの結果の進捗を見つつ、当初予定していた遺伝子欠損マウスの購入、Rag2欠損マウスとの交配を進める。 ヒト検体についてはこのまま集積を続ける。
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Causes of Carryover |
炎症環境下における腸管マクロファージ細胞内の鉄動態の把握、またマクロファージ細胞内の鉄蓄積がサイトカイン産生能に与える影響の検討、において、当初予定していた結果と反する結果が得られたため、追加検討を行っている。このため、当初計画していた遺伝子欠損マウス(Slc40a1, Nfe2l2)の購入を延期した。差額が生じた最たる理由はこれによるものと考える。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
実験の進捗を見つつ、当初予定していた遺伝子欠損マウスの購入を進める。
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