2016 Fiscal Year Research-status Report
GATA4を介した循環器疾患と運動器症候群の病態連関
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16K19397
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Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
高谷 智英 信州大学, 先鋭領域融合研究群バイオメディカル研究所, 助教(特定雇用) (00450883)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 骨格筋幹細胞 / 筋芽細胞 / 骨格筋 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度はまず、骨格筋の再生に影響する循環器疾患関連因子をスクリーニングするための実験系を構築した。B6/Jマウスの若齢マウスの骨格筋組織から採取した骨格筋幹細胞(衛星細胞)を初代培養して得られた筋芽細胞を、コラーゲンコートした96穴プレートに播種し、増殖培地もしくは分化培地で培養した。培養中に、スクリーニングに供する因子を添加し、48時間後に、骨格筋の最終分化マーカーであるミオシン重鎖の免疫染色を行った。イメージアナライザーにより、蛍光顕微鏡写真の撮影から、細胞数およびミオシン重鎖陽性細胞の割合の定量を自動的に行うシステムを確立した。このハイスループットスクリーニング系を用い、循環器疾患、加齢性筋疾患、メタボリック症候群等への関与が考えられる因子や、これらに予防・治療効果を有することが期待される分子・成分等を探索した結果、筋分化を促進ないし抑制する因子を複数同定することに成功した。 そのうち、腸内細菌叢を構成する乳酸菌の一種のゲノム配列に由来する短鎖オリゴDNAが、極めて強力な骨格筋分化作用を示すことを見出した。myoDNと命名したこのオリゴDNAを未分化な筋芽細胞に投与すると、増殖培地中において、48時間後に最大40%の細胞がミオシン重鎖陽性の筋管へと分化する。myoDNを筋芽細胞に投与すると、筋分化の促進に伴い細胞分裂が抑制される。しかし、myoDNは線維芽細胞の増殖は抑制しないことから、myoDNは、骨格筋系の細胞に特異的に作用し、その分化を亢進することが示唆された。現在までに、myoDNの活性中心と予想されるコア配列を見出している。また、myoDNの活性にはその立体構造が重要な役割を果たしていることも明らかになりつつある。筋分化を強力に促進するmyoDNは、循環器疾患および加齢による筋委縮の予防や治療に有用な機能性分子となる可能性があると期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度のスクリーニング実験により、循環器疾患、加齢性筋疾患、メタボリック症候群等への関与が考えられる因子や、これらに予防・治療効果を有することが期待される分子・成分等から、筋芽細胞の増殖や分化に影響する因子を複数同定することに成功した。特に、腸内細菌叢の乳酸菌のゲノム配列に由来し、筋分化を強力に促進するmyoDNは、筋再生に影響する全く新しい分子である。これまで、骨格筋系に作用するオリゴDNA分子の例はなく、myoDNのような革新的な新規分子を見出せたのは、スクリーニングの成果によるものである。また、myoDNの強力な筋分化促進作用を活用した、横紋筋肉腫の増殖抑制や、iPS細胞の筋分化誘導の研究も別途に進んでいる。このような例から、本研究で探索・同定される因子群は、当初の対象とした疾患以外にも、多様な関連領域の研究にも新たな知見を提供し得ることが示された。 myoDN以外にも、血中にも存在する遊離脂肪酸や、新規心不全薬として臨床実験も実施されているポリフェノール分子などが、筋芽細胞の増殖・分化に作用することを見出している。これらの分子の作用機序については順次解析を進めており、一部の分子では、標的となる因子やシグナル経路を明らかになりつつある。 これらの成果は、本研究の着想および実験系が有効に機能した結果と考えられる。よって、現在までの進捗状況は「おおむね順調に進展している」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
スクリーニングによって得られた、筋芽細胞の増殖や分化に作用する因子群の作用機序の解明、および筋再生におけるin vivoでの作用の検証を進める。また、新たな因子の同定を目指したスクリーニング実験も継続して実施する。 同定した因子の作用機序については、主に培養筋芽細胞の分化誘導系を用い、遺伝子発現の定量、免疫染色による筋タンパク質発現の確認、細胞周期の確認、細胞の生存試験による安全性の検証等を様々な投与条件で実施し、因子が作用する標的や経路の分子メカニズムを明らかにするとともに、投与濃度・時間等の最適化を検討し、動物実験や臨床試験を見据えた基礎的なデータを集積する。 骨格筋再生における同定した因子の作用をin vivoで検討するため、マウス前脛骨筋にヘビ毒であるカルディオトキシンを注入し、筋障害後の骨格筋再生を誘導する。筋再生を誘導したマウスに、腹腔内注射もしくは経口投与によって因子を投与する。投与後、時系列を追って再生中の骨格筋組織を摘出し、その凍結組織切片を染色することにより、投与した因子が筋再生に与える影響を組織形態学的に検討する。具体的には、新規形成された筋線維の数・直径・面積、分裂増殖中の筋芽細胞の数、自己複製した静止期衛星細胞の数、組織の線維化、脂肪滴の蓄積等である。また、同じサンプルからRNAを抽出し、遺伝子発現を定量することで、in vitroで検証したシグナル経路がin vivoにおいても因子の影響を受けているかを確認する。また、心血管系と骨格筋系との連関を検証するため、因子を投与したマウスの心臓および大動脈も採取し、因子投与により循環器疾患に関連する遺伝子の発現に変動がないかを調べる。
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Research Products
(6 results)