2016 Fiscal Year Research-status Report
心不全における核小体を介した細胞老化誘導機構の生理学的意義の解明
Project/Area Number |
16K19418
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Research Institution | Nara Medical University |
Principal Investigator |
熊澤 拓也 奈良県立医科大学, 医学部, 助教 (10745441)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 心不全 / 細胞老化 / SASP / 核小体 / p53 / rRNA |
Outline of Annual Research Achievements |
心疾患は日本の死亡原因の第二位であり、欧米や世界では一番の死亡原因となっている。心疾患の中でも最も死亡数が多いのが心不全であるため、心不全発症の新たな分子メカニズムを解明し、新規治療法を開発することが期待されている。 最近、心不全の増悪に細胞老化が関与することが示唆されている。心不全を発症するストレス負荷時には細胞老化が誘導される。体内に蓄積した老化細胞は炎症性サイトカインや増殖因子、マトリックスメタプロテアーゼなどの生理活性物質を分泌するSASPと呼ばれる現象を介して炎症反応を亢進し、心不全や動脈硬化の悪性化に寄与する。つまり、加齢や生活習慣に伴うストレスが心臓組織内の老化細胞を増加させ心不全を引き起こす、もしくは悪性化させていると考えられる。申請者はこれまでに、核内構造体である核小体がストレスの種類に応じて自身の大きさを変化させ細胞死や細胞老化といった細胞の運命決定を行っていることを明らかにしている。本研究では、心不全における核小体を介した細胞老化機構の意義を解明し、核小体機能の制御方法を確立することによって新たな心不全治療法への応用を目指す。 本年度は、心不全モデルマウスを用いた解析を行った。大動脈狭窄術(TAC)を施したマウスの心臓において老化細胞が蓄積されることが分かった。それらの老化細胞では核小体の肥大化も認められた。さらにTAC時の心臓を用いて、rRNAの転写やプロセシングを検討した結果、rRNA転写の亢進が明らかとなった。TAC時にrRNAの転写を促進するストレスについても解析を進めた結果ROSの増加が引き金になっている可能性が示唆された。 また、本年度はマウス心臓より単離した初代心筋細胞、初代心臓線維芽細胞を用いて核小体の人為的制御化合物の開発においても研究を進めた。2つの化合物において老化した心臓線維芽細胞特異的に細胞死を誘導できることを見出した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
去年度に進める予定だった実験計画は全て達成し、おおよそ予想通りの実験結果を得ることが出来た。多少実験を前倒しに進めることが出来たので、今年度に予定していた実験のパイロット実験などを行い、条件検討等も進めることが出来た。さらに、当初は予定していなかった、老化した心臓線維芽細胞と心筋細胞のクロストークについても解析を進めることが出来たため、当初の計画以上に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、TAC時のrRNAの転写の亢進にROSが寄与しているのかということを明らかにするため、Nアセチルシステインなどの抗酸化物質を用いてROSを除去した際に、心臓内の老化細胞が減少するかを調べる。さらに、心不全患者の心筋生検サンプルを用いて、老化細胞の蓄積や核小体のサイズ、rRNAの転写・プロセシングの状態を解析する。rRNAの転写が変化する上流のシグナルであると考えている、ROSについても解析する。加えて、これらの心不全患者の心機能や予後のデータも記録してあるので、老化細胞や核小体サイズとの相関関係について調べる。心機能や予後などと相関関係を解析し、心不全の悪性度を示す新たなマーカーとなり得るかについても検討を行う。 また、圧負荷モデル、急性心筋梗塞モデルのマウスに核小体制御化合物を投与し、心臓における老化細胞の蓄積状況や核小体サイズ、アポトーシス誘導効果を検討する。また、化合物のrRNA転写・プロセシングに与える影響についても解析する。さらに、化合物投与による心臓機能や予後への効果を調べて、核小体の人為的な制御が疾患の治療につながるか検討する。投与方法としては静脈注射、腹腔内注射の二つの方法を予定している。心機能を調べる方法としては、心重量の測定や心エコー、心機能マーカーの発現量の変化などを検討している。
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Research Products
(5 results)