2016 Fiscal Year Research-status Report
前頚部軟部組織持続陰圧負荷による閉塞型睡眠時無呼吸の新しい治療法の開発
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16K19469
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Research Institution | Kanazawa Medical University |
Principal Investigator |
齋藤 雅俊 金沢医科大学, 医学部, 助教 (30595319)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 睡眠時無呼吸症候群 / 終夜ポリソムノグラフィー検査 / CO2換気応答 / 炎症性サイトカイン / Sirtuin(SIRT)遺伝子活性 |
Outline of Annual Research Achievements |
鼻マスク式持続陽圧呼吸(CPAP)は閉塞性睡眠時無呼吸(OSAS)の標準的な治療法だが、マスク装着の必要性から治療を継続できない患者が少なくない。また、上気道に陽圧を負荷するため、患者自身が本来もっている上気道陰圧反射による生体防御機能を低下させる。前頚部の持続陰圧吸引により、軟部組織による上気道への圧負荷を軽減させ上気道開存性を改善する新たな治療法を開発することを検討した。 65名のOSASに対して、用手的軟部組織牽引法を用い、座位と仰臥位での舌根部断面積に及ぼす影響を測定した。座位3.3±0.9 cm2に対し仰臥位2.7±0.7 cm2と減少し、軟部組織を牽引した時は仰臥位で3.1±1.1 cm2に増加し、座位から仰臥位への体位変化による変化量の約60%を回復させた。座位と仰臥位での軟口蓋部抵抗は、それぞれ0.08±0.26 cmH2O/L/sと0.41±0.42 cmH2O/L/sで、仰臥位で増加した。軟部組織を牽引すると仰臥位に比べ有意差はなかったが0.24±0.26 cmH2O/L/sに減少した。 中等症から重症のOSAS患者に対して、覚醒時にCPAPマスクを用い前頚部の経皮的持続陰圧吸引を行うと、舌根部断面積が有意に拡大した。同じ方法で睡眠時に測定した2名は中等症OSASで、ともに持続陰圧吸引により無呼吸低呼吸指数(AHI)が改善し、1名では持続陰圧吸引でAHIが正常化した。 さらに側頚部から前頚部までの広範囲を牽引することで、より上気道周囲の軟部組織圧を低下させることができると考えた。実際に歯科用デントシリコンを用い、側頚部から前頚部までを覆うマスクを作成し、覚醒時に健常成人男性で舌根部断面積を測定すると、持続陰圧がないときの舌根部断面積に対して、‐16cmH2Oの持続陰圧では舌根部断面積が1.5倍となり、前頚部のみの持続吸引よりも改善効果が大きいことが判明した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
軟部組織持続陰圧装置作成のため、3Dプリンターで装置の外形の作成はできる可能性がある。しかし、CPAPマスクのように皮膚に柔軟に接着するジェル部位を作成することが困難である。CPAPマスクもそのジェル状の接着部位があるため効率よくマスクからのエアリークを防ぎ、効果のある持続陽圧を気道にかけることができ、効果が得られている。以前、ギプス素材を用いて作成したマスクも同じ問題点があり、個人に合わせて作成しても効果的に持続陰圧が負荷できなかった。3Dプリンターで作成した持続陰圧装置では皮膚とマスクの間から空気が入り十分な陰圧をかけられない可能性が高く、有効に活用ができない可能性が高いだろうと判断した。 近年、小児や学童期~青年期の睡眠時無呼吸症候群(OSAS)の発症には、CO2換気応答(HCVR)の低下が、睡眠時の呼吸を不安定にし、無呼吸が起こると報告されている。本邦のOSASは、非肥満患者が多く存在し、成人OSASにおいてもHCVRが、繰り返す上気道狭窄や閉塞による換気障害に関係している可能性がある。OSASの低酸素における内分泌代謝、心血管系の病態解析は盛んに行われてきたが、成人OSASにおける高炭酸ガス血症との報告はなく、覚醒時HCVRと、睡眠時のCO2動態の報告もない。今回、覚醒時HCVRを測定し、CO2モニターを用いて、終夜ポリソムノグラフィー検査(PSG)の際に測定し、成人OSASにおけるCO2と上気道閉塞に関する検討を行うことが新しい無呼吸の病態解析につながると判断し、検討を行うこととした。 金沢医科大学倫理審査委員会を行ったのち、OSASが疑われPSG検査を当院で施行する患者で同意の得られた36名において、採血、肺機能、覚醒時HCVR、睡眠時呼気CO2と経皮CO2の測定を施行している。
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Strategy for Future Research Activity |
欧米における成人睡眠時無呼吸症候群(OSAS)の覚醒時HCVRは亢進、低下、正常と報告が様々である。また、OSAS患者は睡眠時の繰り返す上気道の閉塞によるCO2貯留をきたすが、成人OSASにおいてCO2換気応答(HCVR)と覚醒時、睡眠時、起床時の呼気CO2と経皮CO2と、OSAS合併症が関連するかは明らかになっておらず、CPAP治療導入後のHCVR や呼気CO2と経皮CO2の測定も不明である。 100症例のデータ取得目指し、成人OSAS患者の覚醒時HCVRと呼気CO2と経皮CO2の測定、睡眠時呼気CO2と経皮CO2を測定し、OSAS合併症の関連の検討を行っていく。OSASは健常人と比較し、炎症性サイトカイン(IL-6,TNF-α)が高く、低酸素ストレスが誘因と言われている(J Clin Endocrinol Metabol 85:1151-1158,2000)。また、ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)は、炎症性サイトカイン産生の抑制にかかわる重要な分子であり、COPDの臨床病期の進行とともに活性が段階的に低下していく(Eur Respir J 2005; 25)。両疾患ともに低酸素血症と高CO2血症をきたし、炎症性サイトカインやHDACに影響を及ぼす可能性があるが、OSASにおいて高CO2血症と炎症性サイトカイン、HDAC活性の関係は不明である。 本研究では、患者におけるHCVRと呼気CO2と経皮CO2の測定を行い、測定した呼気CO2や経皮CO2と、AHI、低酸素のほか、併存症、疾患重症度、炎症性サイトカイン(IL-6,8,10,TNF-αなど)と、循環血液中のHDAC活性、Sirtuin(SIRT)遺伝子活性の関連について、統計学的手法を用いて明らかにする。
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Causes of Carryover |
成人睡眠時無呼吸症候群(OSAS)において覚醒時CO2換気応答(HCVR)と覚醒時、睡眠時の呼気CO2(Et-CO2)と、OSAS合併症との関係は解明されていない。 100症例の成人OSAS患者の覚醒時HCVRとEt-CO2、睡眠時Et-CO2を測定し、OSAS合併症との関連の検討を行っていく。PSG検査当日に、採血を行い一般血液検査と血管増殖因子関連遺伝子HIF-1α, VEGF-A, VEGFR-1, VEGFR-2, HDAC-2,CD34, SIRT-1, CXCL4や、炎症性サイトカインの採取(TNF-α, IL-1β, IL-6, IL-10, IL-13, IL-33など)、転写因子(NF-κB)の測定や血管内皮前駆細胞関連遺伝子CD133, vWF, PECAM-1の測定をRT-PCR法などを用いて検討していく。上記の検討を行うために次年度使用額が生じている。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
覚醒時に呼気CO2(Et-CO2)の上昇と換気量の増加を測定する。終夜睡眠ポリグラフィ-(PSG)検査の際に、Et-CO2測定カニューラを鼻腔入口部に挿入し、センテックデジタルモニターシステムのイヤークリップを耳垂に装着し経皮CO2センサーを装着する。消耗品として、Et-CO2測定のカプノトゥルーASP用鼻口カニューラ成人用と、経皮CO2センサーのイヤークリップはCO2濃度を測定のため必要である。 OSASの重症度や低酸素状態、CO2濃度、合併症が遺伝子多型、血管増殖因子関連遺伝子、細胞周期調節遺伝子、炎症関連遺伝子、一酸化窒素合成酵素遺伝子、血管内皮前駆細胞関連遺伝子などへ影響を及ぼすかDNA採血管、RNA採血管を用いて検体を採取し検討するために必要である。研究機器の設定や研究に対する情報交換、データ整理を行うための人件費や、研究成果を国内外の学会で発表のため必要な出張経費に使用する。
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