2016 Fiscal Year Research-status Report
パーキンソン病における神経回路再編過程の可視化解析
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16K19508
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
畑中 悠佑 京都大学, 医学研究科, 特定助教 (50581899)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 記憶痕跡 / 2光子in vivoイメージング / Arc / 前初期遺伝子 / パーキンソン病 / α-シヌクレイン / BACトランスジェニックマウス / 神経変性疾患 |
Outline of Annual Research Achievements |
ドーパミン作動性ニューロンの細胞死を主な原因とするパーキンソン病において,症状の進行,および失われた脳機能の代償作用に伴い,脳の神経ネットワークの再編成が起こると考えられるが,その過程の一切は不明のままである.本研究では,神経活動の痕跡を単一細胞レベルで可視化できるマウスを用いて,パーキンソン病における神経ネットワークの再編過程を,in vivoイメージングにより,同一個体で継時的に追跡する.さらに,脳全体のex vivoイメージングにより,パーキンソン病に対し補償的に活性化される代償回路を探索する.これにより,症状の進行・運動学習機能の破綻・機能代償の各過程における神経ネットワークの再編成メカニズムを明らかにしようと試みる. 本研究では,パーキンソン病マウスモデルとして,MPTPモデルマウスおよびα-シヌクレインBACトランスジェニックマウスを使用する.記憶痕跡の変化をパーキンソン病の神経ネットワーク再編過程の指標とし,前初期遺伝子Arcのプロモーター下で蛍光タンパク質Venusを発現するArc-dVenusマウスにより活性化ニューロンのみを可視化し,その生体内観察には,2光子励起レーザー顕微鏡によるin vivoイメージングを用いる.パーキンソン病において1次運動野(M1)の可塑性が障害を受けていることから,運動機能の中核を担うM1において,神経ネットワークの大規模な再編成が進行していると考えられ,本領域をin vivoイメージングの対象とする. パーキンソン病における神経ネットワークの解析は,統計学的手法を用いた脳機能イメージングが主流であるが,本研究では,同一個体を追跡的に観察することで,症状の発症・進行・機能代償の任意の時点における経時的イメージングを可能とした.また,本研究は,ドーパミンによる記憶成立メカニズムの調節機構の解明という基礎研究の側面も併せ持つ.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
以下の項目を達成した. 1.ロータロッド(回転型トレッドミル)を用いた協調運動学習成立の諸段階(記憶獲得・固定化・想起)のそれぞれにおいて,任意のタイミングでドーパミン欠乏状態を実現させることに成功した.これは,ドーパミン作動性ニューロンに選択的に細胞死を誘導するMPTPの投与法およびその投与タイミングを変えることで実現した. 2.パーキンソン病関連変異A53TおよびリスクSNPを有するα-シヌクレインのBACトランスジェニックマウス(mtSNCA-BACマウス)を新規に作製し,α-シヌクレインの時空間発現パターンを忠実に再現したパーキンソン病モデルマウスを作製した.異常リン酸化したα-シヌクレインの大脳皮質および嗅球における選択的な蓄積を示した.またドーパミン作動型ニューロンの脱落およびその神経終末におけるTHの減少を示した. 3.マウス1次運動野(M1)の2光子in vivoイメージング法を樹立し,協調運動学習後の活性化ニューロン集団(記憶痕跡)を,Arc-dVenusマウスを用いて可視化する実験系を確立した. 以上の理由から,達成度を評価した.
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Strategy for Future Research Activity |
以下の項目を今後の予定とする.
1.慢性的・反復的な記憶痕跡の2光子in vivoイメージングを行い,協調運動学習成立時の,技能獲得・固定化・想起の諸段階における神経回路再編過程を可視化解析する. 2.上記,神経回路再編過程が,パーキンソン病モデル(MPTP投与モデルおよびmtSNCA-BACマウスモデル)でどのように破綻するのかを解析する.これにより,パーキンソン病の症状進行に付随する神経回路再編機構を解明する. 3.黒質ドーパミン作動性ニューロンの細胞死が進行しても,しばらくは運動症状が現れないことから,ドーパミン欠乏に対し,補償的に活性化され,機能代償を果たす神経ネットワークの存在が示唆される.上記パーキンソン病モデルマウスとArc-dVenusマウスを用い,透明化処理を含めたex vivo解析により,固定化した脳全体の広範なネットワークをイメージングし,賦活化された代償回路を探索・同定する.
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