2016 Fiscal Year Research-status Report
臓器別インスリン受容体欠損が全身糖利用に及ぼす影響
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16K19529
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
高橋 圭 東北大学, 医学系研究科, 助教 (00644808)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 13C-グルコース呼気試験 / 肝臓 / 骨格筋 / インスリン抵抗性 / 糖代謝異常 |
Outline of Annual Research Achievements |
13Cは自然界に存在する炭素原子の同位体の約1.1%を占める。13Cを用いた呼気試験は既に臨床応用されているが、近年、グルコースに13Cを配置したグルコース(13C-グルコース)を用いた呼気試験(13C-GBT; 13C-glucose breath test)が開発された。13C-GBTでは、摂取した13C-グルコースは酸化されて最終的に13Cで標識された二酸化炭素(13CO2)として呼気に排出されることから、呼気中の13CO2を測定することで投与した13C-グルコースの各臓器における酸化の総和を経時的に評価することが可能となる。13C-GBTは(1)非侵襲的(2)簡便(3)検査や解析が短時間で済む(4)放射性同位体である14Cとは異なり検査に伴う被爆がない、などの点で従来のインスリン抵抗性評価法よりも優れている。研究代表者らは、マウスに13C-グルコースを負荷して呼気への13CO2排出を再現性良く観測することに世界で初めて成功した。 耐糖能悪化の経過に伴う個体レベルでのグルコース酸化の変化を検討するために後天的に肝臓でインスリン受容体をノックアウトさせたマウスを作製し13C-GBTを施行した。後天的肝臓特異的インスリン受容体ノックアウトマウスではmRNAレベルおよびタンパクレベルで実際に臓器特異的にインスリン受容体の発現が低下することや、インスリン受容体の下流シグナルが実際に減弱することを確認した。後天的肝臓特異的インスリン受容体ノックアウトマウスでは血中13C-glucoseが上昇しており、呼気13CO2排出も増加していた。以上より、肝におけるインスリン作用の低下は個体レベルでのグルコース酸化を亢進させることが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
tamoxifen誘導型Cre-loxPシステムを用いて後天的肝臓特異的インスリン受容体ノックアウトマウスの作製に成功した。このマウスではmRNAレベルおよびタンパクレベルで実際に臓器特異的にインスリン受容体の発現が低下することや、インスリン受容体の下流シグナルが実際に減弱することを確認した。また、13C-グルコースを用いた呼気試験(13C-GBT)を行い、後天的肝臓特異的インスリン受容体ノックアウトマウスで呼気13CO2を測定した。13C-GBTにおける13C-グルコース投与方法には、経管投与、腹腔内注射、静脈注射など様々な方法があるが、投与経路を変えることで呼気13CO2濃度に差異が生じることを確認した。さらに、13C-GBTを数日ごとに繰り返し、インスリン受容体をノックアウトしてからの期間に伴う経時的変化も確認した。 骨格筋はインスリンの標的臓器としては肝臓と並んで重要で、これまでにも先天的に骨格筋特異的にインスリン受容体をノックアウトさせた遺伝子改変マウスを用いた研究が行われてきた。しかし、これらのマウスでは発生過程もしくは生後早期に何らかの代償機転が生じている可能性が高く、インスリン受容体を欠損させた組織でのインスリン作用低下の効果を直接評価しているかは疑問が残る上、先天的ノックアウトマウスから得られる知見をそのままヒトの病態の理解に当てはめることは必ずしも適切ではない。そこで、後天的に骨格筋特異的にインスリン受容体をノックアウトさせた遺伝子改変マウスを作製することとし、実際にtamoxifen誘導型Cre-loxPシステムを用いて後天的骨格筋特異的インスリン受容体ノックアウトマウスの作成に成功した。このマウスにおいて、mRNAレベルおよびタンパクレベルで臓器特異的にインスリン受容体の発現が実際に低下することを確認した。
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Strategy for Future Research Activity |
糖尿病患者や肥満患者は全身レベルのインスリン抵抗性を有するが、それは単一の臓器や組織における異常に起因するものではなく、むしろ複数の臓器や組織での異常が複雑に絡み合って個体レベルでのインスリン抵抗性を形成していると考えられる。それゆえ、後天的といえども単独のインスリン標的臓器でインスリン受容体をノックアウトさせたマウスが肥満糖尿病患者の病態を的確に反映しているとは言えず、複数のインスリン標的臓器で同時にインスリン受容体をノックアウトさせることで患者の病態に近いモデルが得られる。 現在までに研究代表者らは後天的肝臓特異的インスリン受容体ノックアウトマウスを用いて肝臓におけるインスリン抵抗性が個体レベルのグルコース酸化におよぼす影響を、呼気13CO2濃度を測定することで評価しているが、今後は他臓器におけるインスリン抵抗性が個体レベルでのグルコース酸化におよぼす影響を検討していく。具体的には、当該年度に作成した後天的骨格筋特異的インスリン受容体ノックアウトマウスを用いて骨格筋におけるインスリン作用不全が個体レベルでのグルコース酸化におよぼす影響を、呼気13CO2濃度を測定することにより評価していく。また、後天的に肝臓および骨格筋の両方でインスリン受容体をノックアウトさせたマウスを作製し、個体レベルでのインスリン抵抗性の複雑な病態におよぼす影響を検討していく。 臓器特異的なインスリン受容体ノックアウトが全身におけるインスリン抵抗性にどのように寄与するかを明らかにすることを試みることにより、ヒトにおいても個々のインスリン標的臓器におけるインスリン作用の低下が全身での糖尿病の発症や病態に寄与するメカニズムの解明を目指す。さらには、インスリン抵抗性を基盤とする2型糖尿病の新規の診断法や病態評価法の基盤となる知見の創出を目指す。
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Research Products
(5 results)
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[Journal Article] MicroRNAs 106b and 222 Improve Hyperglycemia in a Mouse Model of Insulin-Deficient Diabetes via Pancreatic β-Cell Proliferation.2017
Author(s)
Tsukita S, Yamada T, Takahashi K, Munakata Y, Hosaka S, Takahashi H, Gao J, Shirai Y, Kodama S, Asai Y, Sugisawa T, Chiba Y, Kaneko K, Uno K, Sawada S, Imai J, Katagiri H
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Journal Title
EBioMedicine
Volume: 15
Pages: 163-172
DOI
Peer Reviewed / Open Access
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[Journal Article] Activation of the Hypoxia Inducible Factor 1α Subunit Pathway in Steatotic Liver Contributes to Formation of Cholesterol Gallstones.2017
Author(s)
Asai Y, Yamada T, Tsukita S, Takahashi K, Maekawa M, Honma M, Ikeda M, Murakami K, Munakata Y, Shirai Y, Kodama S, Sugisawa T, Chiba Y, Kondo Y, Kaneko K, Uno K, Sawada S, Imai J, Nakamura Y, Yamaguchi H, Tanaka K, Sasano H, Mano N, Ueno Y, Shimosegawa T, Katagiri H
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Journal Title
Gastroenterology
Volume: -
Pages: -
DOI
Peer Reviewed / Open Access
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[Journal Article] ER Stress Protein CHOP Mediates Insulin Resistance by Modulating Adipose Tissue Macrophage Polarity.2017
Author(s)
Suzuki T1, Gao J2, Ishigaki Y3, Kondo K1, Sawada S1, Izumi T1, Uno K1, Kaneko K1, Tsukita S1, Takahashi K1, Asao A4, Ishii N4, Imai J1, Yamada T1, Oyadomari S5, Katagiri H6.
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Journal Title
Cell Reports
Volume: 18
Pages: 2045-2057
DOI
Peer Reviewed / Open Access
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