2016 Fiscal Year Research-status Report
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16K19550
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
伊藤 亮 東北大学, 医学系研究科, 助教 (80733815)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 内分泌 / 遺伝子発現制御 |
Outline of Annual Research Achievements |
これまでの研究において、CYP11B2遺伝子座にGFPを組み込んだBACを組み込んだTgマウス(CYP11B2-GFP Tgマウス)を4系統作出した。その内の1系統は、内在性CYP11B2 mRNAと同様に、副腎においてのみGFP mRNAの発現が見いだされた。本研究では、このTgマウスの副腎から球状層細胞の単離を目指したが、抗GFP抗体を用いた免疫蛍光染色法を用いても球状層細胞特異的なGFPシグナルは得られなかった。 そこで、CYP11B2-GFP発現量を上昇させる条件を模索し、CYP11B2-GFPつくば高血圧マウスの作出を目指した。つくば高血圧マウスは雌レニンTgマウスと雄アンジオテンシノーゲンTgマウスを掛け合わせたダブルTgマウスであるが、本研究では、CYP11B2-GFPつくば高血圧マウス(CYP11B2-GFP+/-, レニン+/-, アンジオテンシノーゲン+/-)を作出し、コントロール群(CYP11B2-GFP+/-, レニン-/-, アンジオテンシノーゲン-/-)との副腎におけるGFP mRNA発現量の比較を行った結果、予想に反し、GFP mRNAの発現量に変化は見られなかった。これらの結果から、上述のBACに含まれる領域はCYP11B2遺伝子の副腎特異性を規定するには十分であるが、アンジオテンシンII応答には不十分であることを示唆している。これまでCYP11B2のアンジオテンシンII応答性に関する研究は、培養細胞を用いた実験から転写開始点近傍のプロモーター領域が主要な役割を担っていることが報告されてきた。しかしながら、今回の研究結果から、マウス個体レベルでのCYP11B2遺伝子の発現制御はより広範な制御領域を必要とする可能性が新たに考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今回の進捗より、個体レベルで新たなCYP11B2発現制御機構の可能性を示唆することができた。しかしながら、本研究の目的である副腎球状層細胞の単離法を樹立し、副腎球状層細胞の過剰増殖メカニズムを解明するには未だ多くの課題が存在する。そこで、新たな研究指針として、副腎球状層細胞の増殖に関与する可能性のある転写因子に着目し、副腎由来H295R細胞を用いてその生理的意義と分子機構の解明を目指した。 副腎選択的に発現する転写因子cAMP response element modulator (CREM)はCREBファミリーに属する因子であり、増殖因子刺激などに起因するシグナル伝達経路を介してリン酸化・活性化され、CRE配列に結合することで標的遺伝子の転写を活性化することが知られている。CREMには様々なスプライシングアイソフォームの存在が知られているが、始めに、H295R細胞をアンジオテンシンIIで刺激した際のCREMバリアントの発現変化を解析した。興味深いことに、種々のCREMバリアントの内、転写抑制型アイソフォームの一つであるInducible cAMP early repressor (ICER)の発現が顕著に増加することが明らかとなった。さらに、H295R細胞にICERを過剰発現させると、CRE配列をプロモーターに持つアンジオテンシンII応答遺伝子(cFosやNurr1遺伝子)の発現が有意に低下することが明らかになった。これらの結果から、アンジオテンシンII刺激直後はリン酸化シグナル伝達を介してCREMが活性化し、細胞増殖に正に働く応答遺伝子の転写を活性化するのに対し、ICERが発現後その転写活性化を抑制するといったネガティブフィードバック機構が副腎のアンジオテンシンII刺激応答時に存在することを示唆することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究で、CREMバリアントの内ICERの発現がアンジオテンシンII刺激に顕著に応答し、CRE活性化を抑制することを明らかにした。また、多様なCREMバリアントの内、副腎由来H295R細胞においては転写抑制型のCREMα、転写活性化型のCREMτ2が発現することを確認している。しかしながら、ICERを含むこれらCREMバリアントの転写調節機構は未だ解明されていない。そこでCREMによる転写制御機構を明らかにするため、ICER複合体の精製と構成因子の同定を試みた。これまでの解析において、FLAGタグ融合ICERを発現するH295R細胞を用いてFLAG-ICER複合体を精製し、ゲル濾過クロマトグラフィー解析を行ったところ、ICERは分子量150kDa以上の複合体を形成していることを見出した。しかしながら、質量分析に供したところ、交雑物が多くICER複合体構成因子を同定するには至らなかった。そこで、今後の方策として、他のアフィニティタグ、たとえばStrepタグなどとFLAGタグを組み合わせたタンデムタグを融合したICERを発現する細胞を作製し、複合体の精製、並びに構成因子の同定を試みる。さらに、同定した因子がICERをはじめとしたCREMによる転写調節にどのように関係するかを明らかにすることを目指す。
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