2016 Fiscal Year Research-status Report
宮古島でのカポジ肉腫の高発原因:変異型HHV8と島民ゲノムの感受性変異の探索
Project/Area Number |
16K19733
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Research Institution | University of the Ryukyus |
Principal Investigator |
眞鳥 繁隆 琉球大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (80529470)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | カポジ肉腫 / HHV8 / 抗体保有率 / ウイルスゲノム / ヒトゲノム / 沖縄県 / 宮古島 |
Outline of Annual Research Achievements |
現在、日本で発症するカポジ肉腫のほとんどは、エイズに伴って発症するエイズ関連カポジ肉腫であり、古典型や医原性カポジ肉腫といった非エイズ型カポジ肉腫の発症は極めて稀である。しかし沖縄県、中でも宮古島は、日本の中でも例外的に非エイズ型カポジ肉腫の発症頻度が極めて高い。本研究課題に先立ち、我々は宮古島ではカポジ肉腫を生じるHHV8ウイルスへの感染率が、沖縄本島や日本国内の約10倍ほど高いことを明らかにした。しかし、沖縄および宮古島におけるHHV8ウイルスキャリアにおけるカポジ肉腫の発症率は、日本本土と比較して男性で100倍、女性で60倍高いことが算出され、当地におけるカポジ肉腫の高発症は感染率の高さのみでは、到底説明がつかない。 本課題では、当地でのカポジ肉腫の高発症の原因を、変異型ウイルス自体の存在、さらには宮古島から沖縄本土にかけての人口集団に感受性変異をもつ遺伝的背景の存在の、ウイルスとヒトの両面より探索することを目的としている。 また、非エイズ型カポジ肉腫の発症では、ウイルス感染率は男女とも一緒であるのに、カポジ肉腫の発症は男性優位であることが世界の各流行地において知られているが、沖縄および宮古島においても男性優位に発症することを確認している。本解析では、この男女差の解明も目的としている。 さらにはHHV8ウイルスの伝搬と発癌機序を解明することで、宮古島の若い世代でのカポジ肉腫の発症抑制を目標とする。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成28年度は沖縄および宮古に流布するHHV8ウイルスのゲノム変異部位を同定した。 宮古島出身の非エイズ型カポジ肉腫患者3名と、日本本土出身の非エイズ型カポジ肉腫患者1名の腫瘍組織より、ヒトゲノムとHHV8ウイルスゲノムを含んだDNAを抽出した。得られたDNAをテンプレートに、HHV8ウイルスの全長を18カ所ほどに分割するようにPCR増幅を行った。得られた1.5-12 kbpのDNA断片を次世代シークエンサーにて解析することで、ウイルス全長をリシークエンスした。 HHV8の全ゲノム配列はこれまでに欧米・アジアから8種、アフリカのザンビアから16種が登録されている。この中で、他の報告においても参照配列として広く利用されている、ギリシャの古典型カポジ肉腫由来のHHV8(GK18)と比較した際の、アミノ酸非同義置換を抽出した。また、それらの変異の中で、さらに日本本土の患者由来HHV8では確認されない変異を抽出し、宮古島のHHV8ゲノムの特徴として検討した。該当する変異は86のウイルス蛋白中、9つのウイルス蛋白において確認された。その中には、これまでに報告されたことのない、いわば宮古島特有のウイルス変異も8つ含まれていた。 さらに、宮古島のHHV8ゲノムの特徴と考えられた9つのウイルス蛋白における変異が、沖縄本島由来のHHV8でもみられるのか確認した。沖縄本島出身非エイズ型カポジ肉腫患者3名のパラフィン組織由来DNAをテンプレートに、変異箇所が中心になるようプライマーを作成しダイレクトシークエンスをしたところ、沖縄本島由来HHV8での宮古島と共通した変異が確認された。よって、沖縄および宮古島に流布するHHV8は共通しており、世界的にみても、ユニークであることが確認された。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度以降は、沖縄および宮古島のカポジ肉腫患者における発症感受性遺伝子の変異探索を行う。4名の宮古島出身の男性カポジ肉腫患者の末梢血単核球よりゲノム遺伝子を抽出し、HiSeq型のエクソーム解析を、各々受託解析により行う。 4名は宮古島出身ではあるが、直接的な血縁関係はなく独立した患者群として選択し、既に、インフォームド・コンセントの元、書面上の承諾を得て、本課題へ参加してくれている。本学の倫理委員会の承認も得られている。 宮古島の島民において、HHV8ウイルスへの感染頻度は男女に差がなかったが、カポジ肉腫が高齢男性に5倍以上の頻度で発症する性差を持つ。このことより探索する疾患感受性の遺伝子は、性染色体に存在する可能性が大きいと考える。独立した4名の患者の存在により、エクソーム解析により、感受性遺伝子としての候補は、数個の変異遺伝子領域に絞り込みが可能であると、これまでの遺伝性疾患の原因探索アルゴリズムより計算される。 さらに、このHHV8潜在感染、さらにはカポジ肉腫の発症が、血液感染、特に輸血を介して、伝搬しうる可能性があるかどうかは、宮古島周辺にとっては、大きな公衆衛生学的な問題となり得る。同様に沖縄に多く発症する成人T細胞白血病/リンパ腫において、過去に解析された手法にならい、感染経路や輸血の危険度などを判断する。
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