2016 Fiscal Year Research-status Report
統合失調症・自閉症スペクトラム障害における安静時神経活動の感覚・認知処理への影響
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16K19746
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
豊巻 敦人 北海道大学, 医学研究科, 特任助教 (70515494)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 統合失調症 / 自閉症スペクトラム障害 / 機能的結合 / 脳波 / 認知機能 |
Outline of Annual Research Achievements |
統合失調症、及び自閉症スペクトラム障害はそれぞれ臨床症状が大きく異なる精神疾患・発達障害であるが、機能画像研究、神経生理学的研究から、安静時及び感覚応答処理時の神経生理、認知処理過程に類似した異常が見られる。安静時の神経活動の異常は、臨床症状の形成に関与する可能性が指摘されているが、詳細な検討はされていない。我々は、統合失調症、自閉症スペクトラム障害において安静時神経活動の異常が原因となって、感覚応答異常に影響し、そして臨床症状の一側面に影響するという仮説を立てた。それを検証すべく、脳波を計測し、安静時の神経活動の機能的結合パターンが、感覚刺激の誘発反応、臨床症状に影響するか検討することを目的とした。 具体的には、統合失調症患者、自閉症スペクトラム障害、健常者を対象に安静時、及び聴覚刺激を用いた心理課題遂行時の脳波を計測し、独立成分分析行い成分波形を得る。成分波形について成分波形間でのコヒーレンス解析を行い、各周波数帯域ごとで位相同期性に反映される機能的結合パターンを算出する。安静時の脳波から算出した機能的結合について臨床指標や神経心理検査で評価される認知機能との相関を検討する。また、聴覚刺激を用いた心理課題遂行時の脳波から得られる誘発電位、事象関連電位といった指標が介在するかもしれないので、これらを考慮した相関を検討する。また、各周波数帯域ごとの機能的結合パターンについて、疾患特異的な特徴が存在するかもしれないので、患者、健常者データをマージしてクラスター解析を行い、類似した機能的結合を有する集団に再分類する。それぞれ統合失調症や自閉症スペクトラム障害患者の存在率が高いクラスターを特定し、機能的結合パターンの特徴を記述する。 平成28年度は、統合失調症患者、健常者についてそれぞれ30名、合計60名の安静時脳波、聴覚刺激を用いた心理課題遂行時の脳波、神経心理検査のデータを得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成 28 年度の計画は聴覚刺激課題を作成した後、直ちに健常者群、患者群のリクルートを行い、脳波計測、症状評価、認知機能評価を行うというものだった。募集する例数は、統合失調症、自閉症スペクトラム障害、健常者群でそれぞれ約 20 名、合計で 60 名としていた。今年度は、健常者、統合失調症患者についてそれぞれ30名以上の脳波、症状、認知機能検査のデータを得ることが出来た。自閉症スペクトラム障害については、参加する患者を集められなかった。リクルートについて自閉症スペクトラム障害患者を多く診察している施設への呼びかけが必要だと考えた。 脳波は具体的には安静閉眼時、安静開眼時のデータを計測した。また、聴覚刺激を用いた心理課題としては、オドボール課題遂行時のP300(P3a、P3b成分)、注意を定位させないオドボール課題を行い持続長変化と周波数変化のそれぞれの偏奇刺激を呈示した際に惹起するMismatch negativity、聴性定常反応検査パラダイムで誘発される誘発ガンマ律動、音圧依存的に変動するN1成分、クリック音のペアを呈示することで惹起するP50成分を計測した。認知機能については、言語流暢性を評価する単語流暢性検査、処理速度を評価するBACS符号課題、注意機能を評価するAttention Network Test、言語記憶を評価する言語学習検査を実施した。その他各種臨床情報を得た。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度は引き続き患者、健常者のリクルートを行う。成人の自閉症スペクトラム患者について精力的にリクルートする。また研究統括として、データ解析を多角的に進める。多チャンネルの脳波データは全て独立成分分析を行いアーチファクトに寄与する成分波形を除去し、成分波形についてコヒーレンス解析を行う。各帯域(デルタ、シータ、アルファ1、アルファ2、ベータ、ガンマ)について行い、コヒーレンス値を算出する。成分波形間のコヒーレンス値を表現したマトリックスについて、主成分分析(もしくは因子分析)を行い、関連が強い部位間コヒーレンス値を少数の指標に集約する。この成分得点を機能的結合パターンの特徴を表現する機能的結合指標と見なす。臨床指標として、統合失調症についてはは陽性・陰性症状評価尺度(Positive and Negative Syndrome Scale)を、自閉症スペクトラム障害については AQ、可能であればADOS 、さらに感覚偏奇傾向について感覚プロファイルを用いて評価する。その他、抑うつ症状、不安症状、状態依存的な気分などといった心理特性についても評価する。認知機能については別に述べた4種類の検査を用いる。統計解析は、まずはコヒーレンス値からなる機能的結合指標と臨床指標について、重回帰分析を行う。結果によっては、聴覚刺激を用いた心理課題遂行時の誘発電位、事象関連電位などの指標を介在変数とした共分散構造解析を行う。最終的には安静時脳波がそれぞれの疾患において臨床症状や認知機能を予測するかどうかを明らかにする。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由について、平成28年度は、健常者、統合失調症患者、自閉症スペクトラム障害患者の研究参加の謝礼について、別の研究費により支出したため、本研究費から謝金を支出しなかった。別の研究費を用いた理由は、所属する研究室では、本研究に加えて複数の臨床研究が展開されており、1人の実験参加者は多数の研究に参加することをお願いしている。そのため、本研究に関わる脳波や認知機能検査のデータを取得しているが、謝金は別の研究費から支出することで、次年度使用額が発生してしまった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
使用計画としては、平成29年度にさらに募集する健常者、統合失調症患者、自閉症スペクトラム障害患者については本研究費から支出したいと考えている。脳波計測、症状評価、認知機能検査について3千円の謝金を支払いたいと考えている。
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Research Products
(2 results)