2016 Fiscal Year Research-status Report
脳脊髄液中エタノールアミンを基軸とした、うつ病の新規バイオマーカー・治療法の開発
Project/Area Number |
16K19792
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Research Institution | National Center of Neurology and Psychiatry |
Principal Investigator |
小川 眞太朗 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター, 神経研究所 疾病研究第三部, 流動研究員 (00756984)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | エタノールアミン / 脳脊髄液 / バイオマーカー / 大うつ病性障害 / 統合失調症 / 双極性障害 / 内因性カンナビノイド / アミノ酸 |
Outline of Annual Research Achievements |
脳脊髄液 (CSF) 中エタノールアミンのうつ病バイオマーカーとしての有用性を明らかにするため、統合失調症90名・うつ病患者55名・寛解うつ病患者48名・双極性障害67名および健常対照者群117名、合計377名分のサンプルでCSF中エタノールアミン濃度を比較し、疾患特異性の検討を行なった。その結果、うつ病のみならず統合失調症でもCSF中エタノールアミンは有意に低下していた。このことから、CSF中エタノールアミンが精神疾患において疾患横断的に重要な役割を果たしている可能性が示唆された。脳画像解析におけるCSF中エタノールアミンと白質密度との関連の検討では、統合失調症患者群に比べてうつ病患者群においてより強い相関が明らかとなった。
CSFエタノールアミンの状態依存性について検討するため、うつ病患者14名において、電気けいれん療法 (ECT) 前後におけるCSF中エタノールアミン濃度を比較した。その結果、ECT前に比べてECT後のCSFエタノールアミン濃度は有意に増加していた。症状との関連では、ハミルトンうつ病症状評価尺度 (HAMD) のスコア改善量とCSFエタノールアミン変化量は有意に関連した。
動物においては、難治性うつ病のモデルであるWistar Kyoto系ラット、慢性拘束ストレスモデルラット、リポポリサッカリド投与モデルラットのCSFを採取して検討を行なった。その結果、Wistar KyotoラットにおいてはCSF中エタノールアミンの有意な上昇が明らかとなり、ヒトのうつ病患者群とは一致しない結果となった。その他のモデルについては更なる検討を進めている。内因性カンナビノイド代謝酵素阻害剤・活性化剤をラットに投与してうつ様行動、CSF中エタノールアミン濃度の検討を行なったところ、有意な行動上の変化は観察されなかった。現在、採取したCSF中のエタノールアミン濃度を解析中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成28年度においては、ヒト脳脊髄液中のエタノールアミンについて、統合失調症・うつ病・双極性障害・健常対照の各群を比較し、疾患特異性の検討を行なった。また、電気けいれん療法前後のうつ病患者の脳脊髄液中のエタノールアミンの比較を行ない、状態依存性との関連を検討した。ラットでの検討においてはWistar Kyotoラットにおいて予測とは逆方向の結果が出たものの、慢性拘束ストレスモデルとリポポリサッカリド投与モデルについては引き続き解析を行なっている。動物への内因性カンナビノイド代謝酵素阻害剤・活性化剤の投与実験については、平成29年度計画を前倒しで行ない、現在は取得データの解析を進めている。特殊飼料を用いた実験については研究プロトコールの作成および企業との共同研究に向けての準備を進めている。以上から、本課題はおおむね計画どおり進行していると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、平成28年度からの実施事項である慢性拘束ストレスモデルおよびリポポリサッカリド投与モデルの作成に関する至適条件の検討および結果の解析を行ない、さらにCSF中エタノールアミン濃度の解析も行なう。また、内因性カンナビノイド代謝酵素阻害剤・活性化剤を用いた実験については、動物の生体試料の解析を進めていく。平成29年度実施予定の動物への特殊飼料投与の実験については計画を早急に進めるため、現在、研究プロトコールを作成し精査を行なっている。また、特殊飼料の作成について企業との打合せを進め、準備を進めている。これら各段階の検討を進め、CSFエタノールアミンのヒトにおけるうつ病バイオマーカーとしての有用性、ヒトと動物でのトランスレータブル・バイオマーカーとしての可能性を検討し、さらにはうつ病の新規治療法の樹立に向けての研究を推進していく。
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Causes of Carryover |
動物実験において、各モデルラットから採取した脳組織中のリン脂質組成解析を今年度中は行なわず、そのための解析費用を支出しなかった。また、動物サンプルの解析は現在続行中であり、アミノ酸解析システム用の溶媒の購入や各種ELISA kit購入のための費用が当初の予想よりも低くなったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度使用額については、平成29年度中に動物の脳組織中リン脂質組成解析や生体試料を解析するためのアミノ酸解析システム用溶媒および各種ELISA kitを購入するための費用に用いる。
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