2017 Fiscal Year Research-status Report
高分子ゲルを用いたHER2過剰発現評価の新規定量化陽性コントロールの開発
Project/Area Number |
16K19886
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Research Institution | Akita University |
Principal Investigator |
水沢 かおり (寺田かおり) 秋田大学, 医学部, 助教 (60610748)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | HER2 / 乳癌 / 免疫染色 / 陽性コントロール / 高分子ゲル / 定量化 |
Outline of Annual Research Achievements |
乳癌は、本邦における女性の悪性腫瘍の罹患率第1位である。手術、薬物療法、放射線療法といった集学的治療が行われ、近年の薬物療法による治療効果は極めて高い。特に薬物療法の方針決定の際には、癌組織のホルモンレセプターや、癌細胞膜に存在するHER2 (hu man epidermal growth factor type2:ヒト上皮成長因子受容体2型)タンパクの発現状態を知ることが必要で、病理組織学的検査として免疫組織化学法Immunohistchemitry:IHC, 以下IHC) が用いられている。HER2陽性乳癌は、トラスツズマブに代表される抗体療法の進歩に伴い著しく予後の改善がみられている。そのため乳癌患者の中からHER2陽性乳癌患者を正確に見出すことは、乳癌の治療戦略を立てるうえで非常に重要で、診断精度の向上が望まれる。HER2タンパク過剰発現の診断は、IHCで癌細胞膜の染色強度により4段階に判定されるが、これは主観によるところが大きく、FISHなど他の検査との結果の乖離も認められる現状などから、染色強度を客観的に判定する方法の検討が必要である。一方で、当研究室ではこれまで、川口らとともに、ナノテクノロジーの技術を応用し、高分子化合物を用いて、機能性微粒子を用いた癌治療戦略に関する研究 (課題番号:20390338) を行なってきた経緯があり、タンパク質と結合する基を持つミクロンオーダーの親水性網目構造体 (=高分子ゲル) の合成が可能であることを確認した。そこで、高分子ゲルにHER2タンパクを結合させ、免疫染色の原理で染色し、その結合するタンパク量によって染色強度に濃度差をもたせ、HER2タンパクの染色強度の陽性コントロールを作成するという着想に至った。ここに画像解析技術を用いて染色強度を数値化し、定量的なHER2免疫染色強度の陽性コントロールを開発する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
H29年度はHER2タンパク濃度の勾配を持った高分子ゲル微粒子の作成と画像解析への応用を課題とした。今回使用する高分子ゲルは、4種類のモノマーの重合体であり、タンパク質と結合する基をもつミクロンオーダーの親水性網目構造体である。抗HER2抗体を用い、免疫染色を行なうと、HER2陽性乳癌と同様に染色性を示す球体として顕微鏡で観察される。高分子ゲルの作成は再現性をもって行うことができた。更に高分子ゲルに添加するHER2タンパクの濃度差によって染色強度に差が生じ、癌細胞膜の染色強度の陽性コントロールとなり得た。パラフィン切片では、抗原不活化処理などの工程で高分子ゲルが剥がれることのないよう、シランコーティングスライドガラスを用いて乾燥時間を延長することで、剥離の問題を解決した。また、非特異染色(タンパクが結合していない場合でも免疫染色で染色性を示す事象)も見られたが、クエンチングにより解決された。また、より画像解析に適した形態とするため、電子顕微鏡の標準球を用いてコアとし、その表面に高分子ゲルを結合させる方法を試み、パラフィン切片の染色の再現性を得ることができた。標準球は正円球であり、生体にはない形態のため、画像解析で陽性コントロールを認識するのが容易となる利点がある。標準球の表面に無数の高分子ゲルを結合させ固相化し、その部分を画像解析で濃度測定する方法が有用と考える。これらの品質改良、染色性の安定、画像解析に向けた工夫は、今後の開発に重要であったため、H29年度も引き続き検討した結果、やや遅れが生じた。現在は画像解析技術の開発中である。
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Strategy for Future Research Activity |
画像解析には、電子顕微鏡の標準球を用い、より画像解析に適した形態とした。標準球は反応基を有しており、中でもアミノ基を持つものが高分子ゲルとの結合性に優れている。そこで、アミノ基を有する標準球をコアとし、その表面に高分子ゲルを結合させて固相化し、表面に免疫染色される相をもった正円球の陽性コントロールを作成した。生体にはない正円球の形態は、画像解析でそれを陽性コントロールと認識するのに非常に適している。画像解析時は、標準球の円形を認識し、その周囲の固相化された染色域の染色濃度を自動計測する方針だが、現時点で標準球の固相化が更に必要であるため、画像解析能力と、それに要する固相化の程度を最適化する検討を行なっている。 今後は、これらの最適条件を利用し、実際の乳癌組織を用いて陽性コントロールとしての実施が可能かを検討していく。また、診断の迅速化、診断コストと簡便性の評価についても検討する予定である。工学面では指導者である川口氏に、病理検討では当院病理医の南條氏に指導を仰ぐ。
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