2016 Fiscal Year Research-status Report
ARを介したビタミンD3の前立腺癌抑制作用の分子機序の解明
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16K20163
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Research Institution | Teikyo University |
Principal Investigator |
諏佐 崇生 帝京大学, 医学部, 助教 (20445852)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 前立腺癌 / AR / ビタミンD3 / LNCaP |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は前立腺癌細胞のLNCaP細胞でのD3-ARシグナル経路とその制御遺伝子群の同定を行った。 まず最初に試みたのが、ゲノム編集による野生型AR発現LNCaP細胞の作製である。LNCaP細胞のARはリガンド結合ドメインにThr-Ala877の変異を有しており、この変異はD3と物理的に交差しないと報告されているものの、変異に依存した現象を完全に否定するのは難しい。このような実験的な問題を含む背景を排除するために、ゲノム編集にssDNAやターゲティングベクターを併用した、相同組換えによる内因性の変異型ARを野生型ARに変換するLNCaP細胞の作出を試みた。組換え候補細胞を約100株選別したが、しかし、相同組換え細胞を得ることは出来なかった。 組換え細胞の作製と並行して、通常のLNCaP細胞を用いたD3による制御経路とその制御遺伝子群の系統的理解の解析を進めた。簡潔に記載すると、siRNAによる各核内受容体(ARとVDR)をノックダウンしたLNCaP細胞に種々のホルモン処理を行い、発現変動遺伝子をマイクロアレイで選別することでそれらの制御経路と制御遺伝子群を同定した。その結果から、LNCaPの変異型ARはD3を変異に依存して直接的なリガンドとして応答していないことを確認することが出来、本研究にはゲノム編集細胞の作製が必須でないことも示された。そして、癌の進行に伴って発現が上昇すると報告される遺伝子群の発現がDHTやD3に抑制されており、またそれらによる抑制はARが主に仲介していることを明らかにした。同定した標的遺伝子群の近傍の領域にARやVDRの結合領域が存在することもChIPアッセイで確かめている。今後、前立腺癌におけるそれら遺伝子の機能解析や、DHTやD3による発現制御の意義と伴に、D3-ARというクロストーク制御機構の解明を行っていく予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「研究実績の概要」にも記載した通り、平成28年度では、①ゲノム編集による野生型AR発現LNCaP細胞の作製 ②D3による制御経路とその制御遺伝子群の系統的理解 の2つの研究を計画した。その進捗状況を次に記載する。 ①の研究では、TALEN発現ベクターや、相同組換えに使用するssDNAやターゲティングベクターを作製し、EGFP発現ベクターと供にLNCaP細胞に遺伝子導入を行った。EGFPの発現を指標に遺伝子導入細胞のみをFACSセルソーターで分取し、限界希釈培養で約100クローンを株化してジェノタイピングを行ったが、組換え細胞を入手するには至らなかった。組換え効率の低さが原因と思われ、より効率の良い実験方法の導入が必要と考えられる。 ②の研究では、マイクロアレイによる網羅的な遺伝子発現の解析から、LNCaPが発現する変異型ARはD3に直接的に交差しないことを予想させる結果を得ることが出来たことより、ゲノム編集細胞の作製を待つことなく研究を進めた。その結果、当初から予想していたD3のシグナルをARが仲介するというクロストークをの存在と興味深い標的遺伝子群を同定することが出来た。今後、その標的遺伝子のDHTやD3による発現制御の意義と伴に、D3-ARというクロストーク制御機構の解明を行っていく予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の研究で同定したD3-ARの抑制的な標的遺伝子である標的遺伝子群は、癌の進行に伴って発現が上昇するだけでなくサルコペニアの発症にも関係することが報告されていることから、その転写抑制機構に興味が持たれる。その遺伝子群は特定の遺伝子座に複数個の遺伝子がクラスターを形成して存在するが、現在までの研究結果から、D3-AR がこのクラスター全体を抑制するという興味深い転写抑制機構を見出している。またChIP解析の結果、2つ遺伝子の転写開始点上流の近傍の領域にD3依存的にARが結合することを同定した。一方、その他の10個以上に及ぶ遺伝子群の近傍領域にはAR結合領域を見い出すことができてていない。このような、数カ所の制御領域を起点として10個以上の複数の遺伝子群の発現を抑制する制御機構には、単純な制御機構ではなく、エピジェネティクスやゲノムの高次構造変化を伴ったダイナミックな転写制御機構が介在することが予想される。平成29年度では、この転写抑制機序を種々の解析方法によって解明を試みる。本研究により、①D3-ARによる新規転写調節機構の発見という基礎研究への貢献だけでなく、②サルコペニア予防・治療にもつながる前立腺癌の新規治療法の開発といった臨床医学へのフィードバックになることが期待される。
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Causes of Carryover |
平成28年度の研究を行った結果、パイロシークエンス、ChIP-seq、RNA-seqといった解析が必要になった。これらの解析は受託解析で行うことを予定しており、その予算とするために次年使用額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
パイロシークエンス、ChIP-seq、RNA-seqなどの受託解析で使用することを予定している。
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Research Products
(4 results)
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[Journal Article] An Excess of CYP24A1, Lack of CaSR, and a Novel lncRNA near the PTH Gene Characterize an Ectopic PTH-Producing Tumor2017
Author(s)
Kosuke Uchida, Yuji Tanaka, Hitoshi Ichikawa, Masato Watanabe, Sachiyo Mitani, Koji Morita, Hiroko Fujii, Mayumi Ishikawa, Gen Yoshino, Hiroko Okinaga, Genta Nagae, Hiroyuki Aburatani, Yoshifumi Ikeda, Takao Susa, Mimi Tamamori-Adachi, Toshio Fukusato, Hiroshi Uozaki, Tomoki Okazaki, Masayoshi Iizuka
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Journal Title
J. Endocr. Soc.
Volume: -
Pages: -
DOI
Peer Reviewed / Acknowledgement Compliant
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