2016 Fiscal Year Research-status Report
聴覚関連遺伝子Fkbp5の機能解析と急性感音難聴の病態解明
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16K20248
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Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
大道 亮太郎 岡山大学, 大学病院, 医員 (20771299)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | Fkbp5 / ノックアウトマウス / 急性感音難聴 |
Outline of Annual Research Achievements |
当研究は、聴覚関連遺伝子Fkbp5の内耳、蝸牛における機能の解明を目的とする。Fkbp5は内耳、蝸牛へのステロイド投与(急性感音難聴治療モデル)によって、発現量が増加する遺伝子である。 平成28年度はFkbp5ノックアウトマウスの系統の立ち上げを行った。マウスFkbp5はクロモソーム17番に存在し、456アミノ酸をコードする遺伝子である。3.7kBのmRNA (cDNA配列)をコードしており、内耳、蝸牛を含む神経感覚器系、免疫系等の細胞に発現している。当研究で用いているFkbp5(Fkbp51)ノックアウトマウスではFkbp5遺伝子のエクソン2が欠失している。 当研究で用いられるノックアウトマウスの樹立では、まず129SvJ マウスのES細胞にエレクトロポレーションによりFkbp5遺伝子ターゲッテイングベクターが導入され、C57BL/6マウスバックグラウンドで、Fkbp5ノックアウトマウスの系統が樹立されたものである。当Fkbp5ノックアウトマウスはホモ接合体で発生、成熟し、雄、雌ともに成体での生殖能も維持されている。 平成28年度に当研究を開始した時点では、当ノックアウトマウスの系統は凍結胚の状態で保存されており、凍結胚を融解し、偽妊娠マウスの卵管に胚を移植した。すでにヘテロ結合体のbreeding pairを得たので、C57BL/6バックグラウンドで、ホモ接合体成体マウスを作成中である。個体選別の際のgenotyping primersの配列も確定し、PCRを問題なく開始し、岡山大学耳鼻咽喉科実験室および、岡山大学鹿田地区動物資源部門でホモノックアウトマウスを維持する準備を整えた。平成28年度末までに以上の計画・作業を、実行中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
交付申請書に記した計画では、平成28年度にはまず、Fkbp5ノックアウトマウスの系統樹立を行い、平成28年度、29年度、30年度に順次、ノックアウトマウスでの聴性脳幹反応による聴力確認、音響外傷による難聴の惹起、電子顕微鏡による観察、DNAマイクロアレイや定量RT-PCRによる遺伝子発現解析、免疫染色法による蛋白発現解析といった実験を行う予定であった。 当研究の動物実験は、岡山大学動物実験委員会およびDNA組み換え実験の承認を得ておこなっているが、これらの審査承認に予想以上の準備期間を要した。しかしながら平成28年度にこれらの審査承認は完了することができたので、Fkbp5ノックアウトマウスの発注を行った。平成28年度末に、交配に必要なヘテロマウスはすでに岡山大学鹿田地区動物資源部門に搬入されたので、ホモノックアウトマウスの樹立にむけた作業を開始した状態である。当研究計画で最も基本になるのは、Fkbp5ノックアウトマウスの確立である。また、予算配分の面で、平成28年度に最も高額になるのはFkbp5ノックアウトマウスの購入費用であるが、これについては上述の様に、すでにヘテロマウスが納入されたので、支払いをおえた。また個体選別のためのPCRについても、予想通りのプロトコールを確立した。したがって、ホモノックアウトマウスを維持する準備は整った。しかしながら、前述の様に、聴力検査、難聴の惹起、電子顕微鏡による観察、遺伝子・蛋白発現の検討といった実験を開始するには至っていないので、当初の研究計画よりやや遅れていると評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
当研究の目的は、ステロイドシグナリング関連遺伝子である、Fkbp5の、聴覚における機能や急性感音難聴発症時のステロイド薬理作用との関連を明らかにすることである。この目的のためFkbp5ノックアウトマウスを用いる。何らかの原因で、ノックアウトマウスの維持に支障が起きた場合には、野生型マウスにおいて、音響外傷で難聴を発症させて、蝸牛でのFkbp5発現を検討する等して、当初の研究目的に沿ったデータを提出する必要がある。平成28年度末の状況としては、Fkbp5ホモノックアウトマウスの系統樹立、維持には特に支障は起こっていないので、引き続きノックアウトマウスの維持を行う。 Fkbp5ホモノックアウトマウスが得られたら、聴性脳幹反応による聴力確認、音響外傷による難聴の惹起、電子顕微鏡による観察、DNAマイクロアレイや定量RT-PCRによる遺伝子発現解析、免疫染色法による蛋白発現解析などを行う計画である。これらの計画は平成29-30年度を通じて実行してゆく。 Fkbp5の聴覚における機能の解明の基本は、Fkbp5ノックアウトマウスの聴力に有意な変化がみられるかどうかである。したがって、まず成体Fkbp5ノックアウトマウスの聴力閾値を聴性脳幹反応で測定して、野生型マウスの聴力閾値と比較する(個体数各群10程度、Mann-Whitney U-testにより検定)。Fkbp5ノックアウトマウスに有意な難聴が見られない場合には、騒音暴露して、難聴発症させた状態で、Fkbp5ノックアウトマウスの聴力を検討する。これらの、Fkbp5ノックアウトマウスの聴力データが、電子顕微鏡による観察や、遺伝子・蛋白質発現といった、次の実験計画を左右すると考えられる。
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Causes of Carryover |
平成28年度にはFkbp5ノックアウトマウスを購入し、交配、繁殖させて、ホモノックアウトマウスの系統を樹立することを計画した。当初は、平成28年度中に速やかにFkbp5ホモノックアウトマウスの系が樹立されれば、聴力の検討、電子顕微鏡等による形態学的検討、内耳での遺伝子発現や蛋白質の局在に関する検討等の実験を行うことを計画した。費用としてはFkbp5ノックアウトマウスの購入がもっとも高額になるため、Fkbp5ノックアウトマウス購入費用の支払いのめどが立った段階で、予算の前倒し請求をおこなった。しかしながら、実際に平成28年度が終了した時点では、ノックアウトマウスを購入し、交配、繁殖させている段階で、次の実験計画の実行にうつってはいないので、次年度使用額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成29年度には、平成28年度に引き続き、Fkbp5ホモノックアウトマウスの系統を維持する必要がある、具体的には、マウスの飼育管理、DNAの抽出と遺伝子型の決定(PCR法による)といった目的に予算を使用する。 また、Fkbp5ホモノックアウトマウスの系が確立された後は、聴力の検討、電子顕微鏡等による形態学的検討、内耳での遺伝子発現や蛋白質の局在に関する検討を行う。具体的には、電子顕微鏡的検討の外部受託、RNA抽出に必要な試薬類、RT-PCRによる遺伝子解析の試薬類や、DNAマイクロアレイの外部受託、免疫染色法に必要な抗体の購入、さらにコントロールとして必要な野生型マウスの購入などに、予算の使用を計画する。また、研究の進展に応じて、当研究と関連した情報収集と発表のために、学会参加する費用も考慮する。
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