2016 Fiscal Year Research-status Report
好酸球性副鼻腔炎における抗酸化作用に基づく新たな治療戦略の試み
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16K20278
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Research Institution | Juntendo University |
Principal Investigator |
小野 倫嗣 順天堂大学, 医学部, 助教 (10433773)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | Superoxide dismutase / 好酸球性副鼻腔炎 / 鼻茸 / Laser microdissection / リモデリング |
Outline of Annual Research Achievements |
近年、難治性の好酸球性副鼻腔炎の病態形成において、サイトカイン・活性酸素などの上皮障害への増悪因子の関与が提唱されているが、防御因子に関しての研究は少ない。好酸球性副鼻腔炎に伴う鼻茸形成を抑制的に作用すると考えられる抗活性酸素因子であるSuperoxide dismutase(SOD)を検証する。また、SODにはsubtypeがあり、気道上皮では特有の局在を呈するので、subtypeについても同様に検証した。 研究の第一段階として、活性酸素との関連における、鼻茸組織中の抗酸化酵素のSOD活性について検証する。活性は非常に不安定なため、組織の保存法、従来の活性測定法を改良した。研究の第2段階として、鼻茸組織中の炎症細胞浸潤の程度を解析するため、免疫染色法を改良し、適切な染色条件を検証する。また、SODが上皮系に局在するため、鼻茸組織中の上皮障害との関連・リモデリングについて検証した。さらに、組織中の好酸球との関連についても検証した。研究の第3段階として、鼻茸組織をLaser microdissectionにより鼻茸上皮を採取して、RT-PCRにより鼻茸上皮のSODのmRNA発現を検証した。鼻茸上皮から抽出できるRNAは非常に微量で単位時間で分解が進行するため、効率よくRNA抽出する方法を改良した。 以上のように①SODの蛋白活性、②SODの発現の局在部位、③Laser microdissectionによる局在部位をターゲットmRNAの定量、④SOD発現量と好酸球・マクロファージ浸潤・リモデリングとの関連により、抗酸化療法の治療応用の根拠を確立された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
慢性副鼻腔炎・鼻茸は耳鼻咽喉科の日常診療において頻繁に遭遇する疾患で,鼻閉,鼻漏,嗅覚障害などの原因となり患者の生活の質を低下させる。従来の慢性副鼻腔炎の大部分は,細菌感染による急性炎症の反復と持続を契機として発症する化膿性副鼻腔炎であったが,近年これとは異なる機序,すなわち何らかの形でアレルギーや好酸球性炎症が発症に関与する新たな副鼻腔炎の病型が増加してきている。One airway, one diseaseの観点より、気管支喘息と慢性副鼻腔炎は病態が類似しており、上気道と下気道は密接な関係があると考えられている。気管支喘息において、気道粘膜の上皮障害やリモデリングは、気道粘膜に集簇した好酸球、マクロファージなどの炎症細胞から放出される、活性酸素の増減の関与が示唆されている。そこで、生体内のフリーラジカルを抑制する抗酸化酵素のSuperoxide dismutase(SOD)、Heme Oxygenase-1(HO-1)、Glutathione peroxidase、Catalaseなどが病態に関与している。喘息合併の難治性副鼻腔炎の1つである好酸球性副鼻腔炎が注目されている。今回の結果は、①IL-17A陽性浸潤細胞が多量に喘息合併慢性副鼻腔炎に存在すること、②IL-17A陽性細胞は鼻茸上皮剥離、基底膜肥厚のリモデリングや重症度と相関すること(Saito T et, al:Int Arch Allergy Immunol 151;8-16, 2010)。好酸球性副鼻腔炎鼻茸を用いて、組織内好酸球浸潤と抗酸化物の1つであるHeme Oxygenase-1(HO-1)、マクロファージとの関連性がある(Kawano K et al:Auris Nasus Larynx 39,387-392, 2012)。難治性かつ再発性の好酸球性副鼻腔炎の防御因子の作用機序が解明された。
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Strategy for Future Research Activity |
好酸球性副鼻腔炎は高度の嗅覚障害、鼻閉、膠状の粘稠な鼻汁を呈し、喘息合併頻度が高く、著しくQOLを低下させる治療抵抗性の難治性副鼻腔炎である。その多くが、薬剤治療抵抗性であり、手術治療となるケースが多い。しかし、術後経過不良で再発するケースも多く、同時に喘息の悪化も伴う。本研究は好酸球性副鼻腔炎の分子病態・機序を解明する突破口を開き、根本的治療の現実化に正面から取り組むものである。これらの基礎研究は、これまでの報告ではほとんどない極めて独創性の高い研究である。この技術が臨床に適用されると、鼻科学に新しい局面を迎えることができる。鼻汁、鼻閉、後鼻漏、嗅覚障害などの鼻症状、頭痛、頬部痛などに悩み、苦しむ数百万人の患者への大きな福音となり、国民生活の質的向上をもたらす極めて有意義な研究である。将来的には、活性酸素が関連する本疾患対して、既存の薬物治療、手術治療とは異なる新規の抗酸化酵素剤の治療法の開発を進めていく。
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Causes of Carryover |
予定の調整がつかず、出席を検討していた学会への参加を断念した為。また、予定していた研究補助者へ協力依頼を行わず、研究代表者、研究協力者にて研究を遂行できた為。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
事前にスケジュール調整を行い、学会出張において積極的に成果発表を行う。更なる研究の遂行により、次年度に研究補助者の協力が必要となった場合は、当初の予定通り研究補助者へ協力を依頼する。残額は必要な消耗品等の購入を行い、成果を上げる。
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