2017 Fiscal Year Research-status Report
ラセン神経節グリア細胞の可塑性解析と聴神経再生への応用
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16K20293
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Research Institution | Research Institute, Shiga Medical Center |
Principal Investigator |
西村 幸司 滋賀県立成人病センター(研究所), その他部局等, 専門研究員 (20405765)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | ラセン神経節シュワン細胞 / ダイレクトリプログラミング / 転写因子 |
Outline of Annual Research Achievements |
ラセン神経節非神経細胞からラセン神経節へのダイレクトリプログラミングを試みた。 in vitro実験として生直後のラセン神経節非神経細胞から神経細胞の誘導に成功した。誘導された神経細胞は、蝸牛有毛細胞(末梢)や蝸牛神経核細胞(中枢)に向けて神経突起を伸張した。誘導された神経細胞からRNAを抽出しRNA seqによる解析を行った。結果、誘導された神経細胞は元のラセン神経節非神経細胞と目的とするラセン神経節細胞の中間的な性質を持つことが判明した。今後の目標は培養期間を長くする、あるいは誘導に用いる転写因子を増やして、誘導神経細胞の品質を向上させることである。成体のラセン神経節非神経細胞の培養系の樹立を試みるも難渋した。理由は成体では蝸牛が骨化するために細胞の採取が困難で、かつ骨組織の除去が初代培養においては特に困難であったことによる。ラセン神経節非神経細胞の培養法については、Method paperとして査読有りの科学雑誌に投稿中である。 In vivo実験としてラセン神経節の障害モデル動物(モルモット)を作成した。その過程で、マウスを用いて見いだしたタイプIIラセン神経節の新たなマーカGata3がモルモットにおいてもタイプIIラセン神経節細胞に発現することを見いだした。In vivo実験においてラセン神経節細胞の障害と、ラセン神経節非神経細胞への遺伝子導入を同時に施行することで、遺伝子導入から3週後、機能的な聴覚回復は得られなかったものの、組織学的に非神経細胞から神経細胞へリプログラミングされた細胞を確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
生直後および成体マウスのラセン神経節から、グリア細胞を含むラセン神経節非神経細胞のin vitro培養系を樹立した。生直後のラセン神経節からの、初代培養の樹立とリポフェクション法による遺伝子導入およびプロトコルの改良を行った。トロント大学との共同研究において、生直後のTau-GFPマウスからラセン神経節非神経細胞、ラセン神経節細胞(神経細胞)をFACSで収集した。また、ラセン神経節非神経細胞にAscl1とNeuroD1を強制発現してリプログラミングした神経細胞(iN: induced neuron)を収集した。これら3群(バルク)からRNAを抽出してRNA-seqを行った。結果、iNはラセン神経節とラセン神経節非神経細胞の中間の遺伝子発現パターンを呈した。これらの結果は、原著論文として報告した(Noda et al., 2018)。 一方で、成体ラセン神経節からの培養は困難であった。成体蝸牛は骨化しているために初代培養組織に骨が含まれ、また培地中に細菌感染コンタミネーションを頻回にきたしたからである。継代により、骨組織を除去して、グリア細胞を安定的に培養する手技を確立した。 成体モルモットを用いて、in vivoでタイプIラセン神経節細胞をアブレーションさせるプロトコル(蝸牛神経障害動物モデル作成のプロトコル)を確立した。極細のヒューズドシリカチューブを正円窓膜に穿刺し、マイクロインジェクターでウアバイン 5 mM, 5 ulを鼓室階に注入した。コントロールは生理食塩水を用いた。ウアバイン注入1、2、3週にABRを測定し、全周波数で生理食塩水に比較し有意に閾値上昇を認めた。免疫組織化学的に、ウアバイン注入群でタイプIラセン神経節細胞がアブレーションされていることを確認した。昨年の研究成果で、マウスタイプIIラセン神経節細胞のマーカーとしてのGata3を報告し、かつタイプIIA, IIBに分類されることを報告した(Nishimura et al., 2017)が、モルモットにおいても同様の所見が得られた。
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Strategy for Future Research Activity |
In vitroで生後ラセン神経節非神経細胞から神経細胞を誘導したが、誘導された神経細胞はラセン神経節細胞(神経細胞)と比較して遺伝子発現が異なった。7日間の誘導では十分に内因性のラセン神経節細胞に近づくまで成熟しなかったためと推察された。かつ、導入した遺伝子がAscl1とNeuroD1のみであり、内因性のラセン神経節へのリプログラミングに十分でなかったとためと考えられた。今後は、遺伝子導入後、より長期に培養した細胞の解析を行う。また、誘導に用いる転写因子としてラセン神経節の発生に重要な役割を果たすNeurog1やEya1, Six1の使用を考慮する。 In Vivo実験としてウイルスベクターをラセン神経節の非神経細胞に感染させる。ウイルスベクターとしてグリア細胞に親和性のあるAAV8あるいはAnc80を用いる。プロモーターとしては、従来使用してきたCMVに加えて、グリア細胞に特異的に遺伝子が発現されると考えられるGFAPの使用を考慮する。
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Causes of Carryover |
成体細胞からの細胞培養樹立方法の確立に難渋したため、動物の発注数が当初予定したより少なくなったため。
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Research Products
(3 results)