2016 Fiscal Year Research-status Report
幹細胞エクソソームと人工生体材料を用いた乳房再建における被膜拘縮制御法の開発
Project/Area Number |
16K20357
|
Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
渡部 聡子 岡山大学, 大学病院, 助教 (20379803)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | PGAシート / シリコン / 抗炎症作用 / 被膜拘縮 |
Outline of Annual Research Achievements |
乳房再建に使用される人工物周囲には、異物反応に伴い線維性被膜形成と長期的な被膜拘縮を生じるため、乳房変形、疼痛、QOLの低下などが問題となっている。申請者らはこれまでポリグリコール酸(以下PGA)シートを用いた人工物による乳房再建の臨床試験を実施してきた。その結果、形成された線維性結合織(カプセル)が薄く、炎症細胞浸潤が少ないことを確認している。しかしPGAシートは生体親和性に優れた吸収性の材料であって、積極的な抗炎症作用や大胸筋下に空間を拡張する性格を示す材料ではなく、長期的な被膜拘縮の解決には至っていない。そこで、現在までの臨床研究結果からPGAシートにMSC等の幹細胞から得られた抗炎症作用や様々な効果を有するエクソソームを含浸させることにより、PGAシートを単なる人工生体材料から、能動的高機能付加人工生体材料へと変化させる事が可能であるとの発想に至った。本研究では、幹細胞由来エクソソーム含浸PGAシートを用いた新たな乳房再建術式の確立とその分子調節機能解明を目的とする。本年度の目的はラット広背筋下にシリコンを埋入し、切離した広背筋起始部と皮下組織をPGAシートで介在させて補強した場合と切離した筋体をそのままの状態にした場合に分けて、それぞれシリコン周囲に形成されるカプセルにどのような違いがあるかを検討する。また、各種組織幹細胞の調整を行いそれら幹細胞から得られたエクソソームのin vitro およびin vivo条件下における作用解明と、エクソソームの効果について検討を行う。また特異的な効果を示すmiRNAもしくはタンパク質の同定を行う。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
まず動物実験モデルを作成するため、ラットにおける生体内でのシリコンに対する異物反応及び被膜形成過程を以下の3条件下に観察した。1)ラットの背部皮下にシリコンを埋入2)広背筋起始部を切離して広背筋下を剥離し、シリコンを筋層下に埋入して筋断端をナイロン糸で皮下と固定し、シリコンの頭側半分のみを筋肉で被覆3)2)と同様に広背筋下を剥離してシリコンを筋層下に埋入し、筋断端にPGAシートを逢着してシリコンの頭側半分のみを筋肉で被覆し、尾側はPGAシートで被覆。それぞれの条件下で埋入後6週目に標本を摘出して組織学的評価を行った。1)皮下に埋入したシリコン周囲の被膜は組織辺縁に比較的発達した厚い線維性結合組織が認められ、線維組織は細胞外基質の形成も発達しており比較的成熟した組織と考えられた。部分的に小血管が認められ、血管周囲にはリンパ球を主体とする炎症性細胞の浸潤も観察された。線維性組織下には血管腔の増生が認められ過去に炎症があったことが考えられた。2)シリコンの頭側のみを筋肉で被覆したものではシリコン周囲の被膜には1)とほぼ同様の組織像が認められた。しかし部分的にリンパ球浸潤と血管内皮細胞の増殖が観察される肉芽組織が観察された。3)2)と同様に頭側半分のみ筋肉で被覆し、尾側はPGAシートで被覆したシリコン周囲の被膜では、組織学的には1)とほぼ同様の組織像が認められた。しかしPGA線維の残存が認められる部分においては、PGA線維周囲に多数の多核巨細胞が認められ、リンパ球を主体とする比較的激しい炎症性細胞を有する肉芽組織が観察された。
|
Strategy for Future Research Activity |
ラットにおいて埋入後6週目における生体内でのシリコンに対する異物反応を観察したが、いずれの条件下でも異物反応は認められた。しかし、条件によってはすでに異物反応が成熟期過程と思われる組織像を示し、ヒトの場合と異なり異物に対する組織反応及び創傷治癒過程が予測よりも早く経過するものと考えられた。次年度は埋入後3日目、7日目、30日目などさらに早期の経時的変化を観察し、動物実験モデルの至適条件を決定する予定である。また、コントロールにおける炎症初期の組織像によっては、目的とする抗炎症作用の効果を明示するため、初期段階における炎症反応を惹起するための条件設定を検討する。
|
Causes of Carryover |
本年度は主に動物実験モデルの条件設定を行い、予備実験として使用した動物数を最小限に限ったため、購入資金に余裕が生じた。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度ではラット個体数を増やして追加実験を行い、さらに瘢痕組織特異的蛋白、遺伝子の発現などを検討するため各種抗体を用いた免疫組織学的検討を行う予定である。このため、実験動物、PGAシートおよび組織学的検討に使用する各種抗体を購入する予定である。
|