2016 Fiscal Year Research-status Report
頭部外傷後脳神経細胞アポトーシスにおける小胞体カルシウムイオンチャネルの関与
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16K20393
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Research Institution | Yamaguchi University |
Principal Investigator |
戸谷 昌樹 山口大学, 医学部附属病院, 助教 (00585721)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 頭部外傷 / アポトーシス / ネクローシス |
Outline of Annual Research Achievements |
頭部外傷においては、一度細胞死を起こした脳神経細胞は再生することはない。細胞死には二つのフェーズがある。一つは直接傷害によって受傷直後に起こる早期細胞死(ネクローシス)、もう一つは受傷後の間接傷害によって起こる遅発性細胞死(アポトーシス)である。アポトーシスは直接傷害を受けた部分の周辺におこり、その部分はペナンブラと言われる。頭部外傷の治療において、いかにペナンブラのアポトーシスを抑えるかが脳保護戦略として大切である。 今回の研究ではラットにLateral Fluid Percussion Injury (LFPI)モデルを用いた頭部外傷モデルを用いた。細胞死を調べるために、TdT-mediated dUTP-biotin nick end-labeling (TUNEL)染色、活性化カスパーゼ3を検出する抗Cleaved Caspase-3抗体を用いた染色を行った。TUNEL染色はDNAの切断を調べているためアポトーシスのみならずネクローシスも検出する。活性化カスパーゼ3染色はアポトーシス実行段階における選択的たんぱく質分解酵素であり、切断された蛋白質に対する抗体を用いて染色をする。カスパーゼ3はアポトーシスの早期に活性化し活性化していない場合には染色されないため、アポトーシスの検出精度が高くなる。染色はそれぞれDAB法による単染色で行った。また、生存細胞の染色のためメチルグリーン染色を行った。TUNEL染色においてはLFPI直後から増加しており、7日目においても確認できた。活性化カスパーゼ3の染色においては、LFPI直後にはほとんど確認できなかったが、3日目から増加が確認できた。TUNEL染色、活性化カスパーゼ3の染色による陽性細胞は損傷側の皮質および海馬に主に見られたが、損傷対側にも認められた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
この研究の目的は頭部外傷後脳神経細胞アポトーシスにおける病態生理の解明と、脳神経細胞アポトーシスにおける小胞体カルシウムチャネルの関与および治療戦略の検討である。1年目の目標は頭部外傷後の時間的、空間的損傷部位の確認であった。頭部外傷におけるアポトーシスをTUNEL染色および活性化カスパーゼ3の染色によって確認した。頭部外傷モデルはLFPIモデルで損傷の強さは2.0 ATAとした。異なる時間でのアポトーシス発現を調べるため、損傷直後と、外傷後1日目から7日目までのラットの脳を染色した。染色はそれぞれDAB法を用いた単染色で行い、メチルグリーンによってバックグラウンドを染色した。TUNEL染色では、損傷側の皮質、海馬を中心に損傷直後から陽性細胞が確認できた。損傷直後よりも数日後の方が陽性細胞は増加した。損傷対側にも陽性細胞が確認できてた。活性化カスパーゼ3の染色においては損傷直後にはほとんど陽性細胞が確認できなかった。損傷後数日後から増加をし、7日目にも陽性細胞が確認できた。活性化カスパーゼ3の染色で陽性細胞が確認できた部位は、損傷側の皮質および海馬であるが、TUNEL染色と同様に損傷対側にも陽性細胞が確認できた。 メチルグリーンによるバックグラウンド、TUNEL染色および活性化カスパーゼ3の染色による陽性細胞の場所を確認すると、神経細胞ではない陽性細胞が多くあると考えられる。おそらく神経細胞だけではなくオリゴデンドログリアやアストロサイトなどのグリア細胞もアポトーシスおよびネクローシスを起こしていると思われる。また、発症数日後からはマイクログリアの活性化や集積が認められていると思われるが、メチルグリーンによるバックグラウンド染色だけでは確認できていない。今後、蛍光染色を用いてどの細胞がアポトーシス、ネクローシスを起こしているのかを確認する必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
この研究の最終的な目標は、アポトーシス抑制に対する小胞体カルシウムチャネルの関与を調べるため、小胞体カルシウムチャネル阻害薬を用いてアポトーシスの抑制を調べることである。小胞体カルシウムチャネル阻害薬は脳室内投与を考えている。頭部損傷を行う際に開頭した部分からすでに生理食塩水の投与を行っており、今後薬剤の注入に関して技術的に問題はない。昨年は治療介入前の基礎研究として、まずLFPIモデルを用いた頭部外傷ラットに対してアポトーシス、ネクローシスの時間的・空間的な分布を研究した。しかし、研究の結果から、アポトーシス、ネクローシスを起こしている細胞がどの細胞なのかを確認する必要があると考えている。現在、TUNEL染色、活性化カスパーゼの3の染色は単染色で行っている。これらの分布や神経の形状を見ると、時間や分布と細胞死を起こした細胞の種類に傾向がある様に見える。最初の数日に増加する細胞の多くは神経細胞ではなくオリゴデンドログリアやアストロサイトである可能性がある。また今回の染色ではマイクログリアが確認できていないが、通常アポトーシスやネクローシスを起こした細胞の周囲には炎症反応が起こり、マイクログリアが集積してくることが予想される。まず、蛍光染色を用いて、どの細胞がどの時期にどの場所に発生しているのかを調べた後に脳室内薬剤投与による治療を開始する予定である。
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