Outline of Annual Research Achievements |
近年, 高齢者の食・栄養に関する関心の高まりとともに,認知症に関連した食事に関する行動障害等への関心も少なからず高まっている.アルツハイマー以外のレビー小体型認知症や前頭側頭型認知症などの認知症の原因疾患について,比較的早期の鑑別診断が可能になった現状であるが,診断された認知症高齢者や家族,ケア提供者にとって,診断後の支援が求められている.特に食事に関する機能は機能低下後の支援よりも機能を維持する支援を予防的に開始することも重要視され,多様性のある摂食嚥下障害に対する予知性のある情報提供や支援策が求められている. これらの背景により本研究では, 原因疾患を踏まえた実態調査に加え,認知症の摂食嚥下障害の多様性や認知症の原因疾患の特徴を踏まえた介入案の提示を行ったうえで,以下の研究を実施した. (1)多様性支援マニュアルのブラッシュアップと予備調査 過去の研究で作成した「経口摂取支援マニュアル」をブラッシュアップして,認知症の摂食嚥下障害の多様性に配慮した支援案(「多様性支援マニュアル」)を作成した.これに対し実際に認知症高齢者の介護経験のある家族介護者,介護職,看護職等に試用依頼し意見交換を行い,問題点の抽出および改正について検討した. (2)アルツハイマー病以外の認知症原因疾患と診断された認知症高齢者の実態調査 認知症高齢者のアルツハイマー病以外の神経心理学的特徴を有する者の抽出を主眼とした実態調査を行った.本調査では,介護保険施設および地域密着型施設,在宅,もの忘れ外来等の認知症高齢者を対象に,これまでの調査の中でアルツハイマー病以外の認知症と診断されている者を含む認知症高齢者約50名を対象として調査を開始した.統計学的手法を用いて,認知症原因疾患と重症度,神経心理学的特徴と食事関連BPSDの頻度と程度に関する検討を行う.また調査の進行上の問題点等についても検討する.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
(1)多様性支援マニュアルのブラッシュアップと予備調査 これまでの蓄積データを基にした認知症の食事関連BPSDについての結果および事例から抽出した支援案をもとに作成した「経口摂取支援マニュアル」をブラッシュアップして,認知症の摂食嚥下障害の多様性に配慮した支援案(「多様性支援マニュアル」)を作成した.特に認知症や摂食嚥下分野の情報は,専門用語が複雑かつ難解であるため,本研究で作成する多様性支援マニュアルは,家族介護者や介護職が理解しやすく,参考にしやすいように平易な表現で,イラストを使用し作成した.これに対し実際に認知症高齢者の介護経験のある家族介護者,介護職,看護職等に試用依頼し意見交換を行い,問題点の抽出および改正について検討した.また同マニュアルの使用方法および経過観察方法については,対象となる認知症高齢者の個別の状況をアセスメントの上で観察の要点を指導し,説明の上試用し,指導効果の検証を開始した. (2)アルツハイマー病以外の認知症原因疾患と診断された認知症高齢者の実態調査 認知症高齢者のアルツハイマー病以外の神経心理学的特徴を有する者の抽出を主眼とした実態調査を行った.本調査では, 介護保険施設および地域密着型施設,在宅等の認知症高齢者を対象に,これまでの調査の中でアルツハイマー病以外の認知症と診断されている者を含む認知症高齢者約50名を対象として,年齢,性別,基礎疾患,薬剤などの基礎情報,認知症の原因疾患と重症度,神経心理学的症状,認知機能検査,日常的ADL,日常生活自立度,要介護度,栄養状態(MNA-SF),食事に対する関心,食に関する行動変化と食事関連BPSD,摂食可能な食形態,口腔内の状態,咬合状態等の認知症高齢者本人に関する調査項目のほか,生活環境,家族環境,通所介護や訪問看護,訪問介護等の社会的インフラの活用の程度等についても調査の対象とした.
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Strategy for Future Research Activity |
(1)多様性支援マニュアルの試用依頼および同意採得できた認知症高齢者および家族介護者,介護職,看護職等に同マニュアルの使用方法および経過観察方法について説明の上試用し,指導効果を検証する.これまでの研究において調査協力頂いた介護保険施設や地域密着型施設,研究代表者が勤務する東京都健康長寿医療センターの患者等の認知症高齢者と,家族介護者,訪問看護・介護等の関係職種に協力依頼する.本研究に関するインフォームドコンセントは,診療とは別に協力依頼するが,臨床的に必要な指導等に関しては適宜行う.指導効果および実際の介入効果に関して数値以外の質的な情報も得られることから集約した意見,アンケート等に対して質的検討を行い,専門的知識のない家族介護者が抱えている心理的負担や情報のニーズ,また介護職がすでに経験の中から得ている経験的解決策等の抽出を行い,多様性支援マニュアルに反映させる. (2)アルツハイマー病以外の認知症原因疾患と診断された認知症高齢者に対する多様性支援マニュアルによる介入と追跡調査 平成28年度に引き続き調査を継続し,統計学的手法を用い認知症原因疾患,認知症重症度に加えて神経心理学的特徴が食事関連BPSDに関与しているかを検討する.客観的な蓄積データを用いた,多様性支援マニュアルを試用することにより実際の現場での効果検証を行う.具体的には,マニュアル試用によって食事ケア方法を調整したことによる事象や心理学的変化,それ以外の要因に関する療養環境の変化(入退院等)について調査し,また調査の進行上の問題点等についても検討する.さらにその結果より,認知症の摂食嚥下障害への理解の促進や,食事支援かかる負担等からの家族介護者・介護職・看護職に対する食事ケア方法の提案を多様性支援マニュアルに反映させる.
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