2017 Fiscal Year Research-status Report
トリアジン骨格を巧みに利用した励起状態プロトン移動特性を持つ星型発光性分子の創製
Project/Area Number |
16K20897
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Research Institution | Iwate University |
Principal Investigator |
村岡 宏樹 岩手大学, 理工学部, 助教 (50546934)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 1,3,5-トリアジン / チオフェン / 励起状態分子内プロトン移動 / プロトンセンシング |
Outline of Annual Research Achievements |
平成29年度は、昨年度までに合成を達成した2,4,6-トリス(5-アリール-3-ヒドロキシ-2-チエニル)-1,3,5-トリアジン、比較化合物として合成した2,4,6-トリス(5-アリール-3-メトキシ-2-チエニル)-1,3,5-トリアジンの特性評価を実施した。 標的分子の一つである2,4,6-トリス[5-(4-N,N-ジブチルアミノフェニル)-3-ヒドロキシ-2-チエニル]-1,3,5-トリアジン、その比較化合物となる2,4,6-トリス[5-(4-N,N-ジブチルアミノフェニル)-3-メトキシ-2-チエニル]-1,3,5-トリアジンは、溶液中において、いずれも可視領域に発光を示したが、ヒドロキシ体は発光量子収率が低く、ほぼ非発光性であったのに対し、メトキシ体では発光量子収率が高く、発光色の視覚的な検出が可能であった。励起状態分子内プロトン移動(ESIPT)を経由する発光は、吸収と発光波長の差(ストークスシフト値)が非常に大きくなることが知られているが、ESIPTが起きないメトキシ体よりもヒドロキシ体のストークスシフト値が小さく、また、溶媒極性増加に伴う発光波長の長波長シフトが観測されたことを考慮すると、ヒドロキシ体で観測された発光は、ESIPTを経由した発光ではなく、分子内電荷移動(ICT)を経由した発光であると考察される。 両分子のプロトン酸に対する応答性を調査した結果、アミノ基並びにトリアジンの窒素原子がプロトンレセプターとして作用するプロトンセンシング特性を有することを明らかとした。特にメトキシ体では、トリアジン窒素原子のプロトン化、引き続くアミノ基のプロトン化に基づく吸収と発光波長の段階的なシフトの結果として、プロトンを溶液色と発光色の二段階変化として視覚的に検出可能な高感度プロトンセンサーとして機能することを見出した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
標的分子として設計した2,4,6-トリス(5-アリール-3-ヒドロキシ-2-チエニル)-1,3,5-トリアジン誘導体の合成を達成し、物性評価までを実施した。これら標的分子群は、溶液中において発光量子収率が低く、ほぼ非発光性であり、研究目標である分子内三か所で励起状態分子内プロトン移動(ESIPT)を経由する発光性分子の創製は達成できていないが、吸収・発光特性並びに環境応答性(溶媒極性変化、プロトン)についての詳細を解明できたため、概ね研究計画通りに進んでいると判断する。 また、興味深い研究成果として、比較化合物として合成した2,4,6-トリス(5-アリール-3-メトキシ-2-チエニル)-1,3,5-トリアジンが優れたプロトン応答性を示すことを明らかとし、溶液色・発光色変化としてプロトンを視覚的に検知可能な高感度プロトンセンサーとしての応用可能性を見出すことに成功した。
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Strategy for Future Research Activity |
分子内三か所で励起状態分子内プロトン移動(ESIPT)を経由する星型発光性分子の創製を目指し、2,4,6-トリス(5-アリール-3-ヒドロキシ-2-チエニル)-1,3,5-トリアジン誘導体を対象として研究を行ったが、現状、標的分子からのESIPT発光は実現できていない。ESIPT発光の発現には、プロトンドナーとプロトンアクセプター間の分子内水素結合が重要であるが、本標的分子ではプロトンアクセプターとなるトリアジンの窒素原子の塩基性が低く、チオフェン環上のヒドロキシル基とトリアジンの窒素原子間の分子内水素結合が弱いまたは形成されていないためにESIPT発光を示さないと予想している。 現在、3-ヒドロキシチオフェンをプロトンドナー、1,3,5-トリアジンをプロトンレセプターとして組み合わせることでESIPT発光の発現が可能かを検証するため、トリアジン骨格上の二つの側鎖を電子供与性のジメチルアミノ基に変更することでトリアジン窒素原子の塩基性を向上させた2,4-ビス(ジメチルアミノ)-6-(5-アリール-3-ヒドロキシ-2-チエニル)- 1,3,5-トリアジン誘導体の合成に着手している。異なるアリール基を有する一連の標的分子の合成を達成した後、系統的な物性評価を行うことで、ESIPTを経由する発光特性を解明するとともに、ESIPTに基づく発光波長や強度が溶媒やイオンなどの外的要因によって変化する知見を踏まえ、環境応答性(溶媒極性、プロトン、塩基)についての評価を実施する。
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