2016 Fiscal Year Research-status Report
社会的‐価値的転回以後の認識論的観点からの知識の規範性についての研究
Project/Area Number |
16K20911
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
二瓶 真理子 東北大学, 電気通信研究所, 教育研究支援者 (50770294)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 社会的認識論 / 物知識(Thing Knowledge) / 知的分業 / 実物的知識コンテンツ / データ・ドリブン型科学(データ駆動科学) |
Outline of Annual Research Achievements |
現代社会の知的状況においては、各個人間かつ各専門官の知的分業がますます進む一方、同一プロジェクト下での複数の協働および多人数での共同研究も必須である。本研究の目的は、この状況に適応した知識の枠組みを認識論的理論として確立することである。 この背景のもとで、今年度は、知識の価値問題における実践的利害にかかわる審級(知的コンテンツの実践的‐社会的評価軸)と、いわゆる真理-実在との一致や経験的成功にかかわる審級(同認識的評価軸)について、哲学的先行文献と、科学研究の実際の状況について、検討・考察した。 【認識的評価概念について】従来的な命題的理論評価のための認識論的規範概念である「真理」にかわり、より広いタイプの知的コンテンツに適用可能である規範概念(より多くのタイプのコンテンツに適応でき、より多くの観点から合意を得られるような概念)の検討を行った。D・ベアードの「物知識」概念を援用し、実験機器や装置といった実物的知的コンテンツが、再現可能な動作を安定的に実現する事態、複数の理論のもとで信頼可能な作動や予測をもたらしうる事例に注目し、実物的知識コンテンツが持つ客観的性格を知識条件として定式化することを試みた。この成果は、HeKKSaGOn第5回日独大学長会議ワーキンググループ内で発表した。 【実践的‐社会的側面からの知的コンテンツ評価について】研究代表者が、データ・サイエンスがより身近にある機関に移動したこともあり、データ・ドリブン型科学研究の構造、制度、認識的/社会的問題を検討した。この成果は、発表および論文「ビッグデータは科学的研究を変化させるのか」(『東北哲学会年報』第33号、2017)で公開したが、ここでは、近年話題となっているデータ・ドリブン型科学と、仮説ドリブン型科学との対立の一因として、巨大プロジェクト内部で複数の方法論、コンテンツ評価の審級が存在していることを指摘した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
以下の理由から、「おおむね順調に進展している」と自己評価する。 (1)命題に限定されない知識種についての、認識論的概念について、一定の研究成果を公開することができた。 (2)現代の科学研究の代表事例のひとつであり、知的分業体制が先鋭化したビッグデータ科学、データ・ドリブン型科学研究について検討、考察を行い、知的分業下での、社会的/認識論的問題について指摘することができた。 (3)また、(2)の考察を通じて、当初計画では意識していなかったが、「データ」の認識論的地位について社会的認識論的に考察することの有効性と必要性に気づかされことは、今後の研究の展開にとって非常に有意義であった。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き、知識コンテンツの複眼的知識評価モデルの明確化を行うため、知識の認識論的側面と、社会的/実践的側面の両方から、知識の価値を評価する枠組みを理論的に検討する。それとともに、実際の科学研究の場面に照らして、これらの検討が妥当であるかを検討する。28年度に、現在さかんに実施されているデータ・ドリブン型科学研究が、知的分業がすすむ巨大科学の典型事例であることを確認したので、このタイプの研究体制を具体的検討対象に採ることにする。28年度中の成果の精緻化をすすめつつ、29年度の具体的作業としては、以下のことをする予定。 ・当初計画にはなかったが、平成28年度中に明らかにした、「物知識」の知識条件、知識としての規範性概念を、「データ」概念に適用することを試みてみたい。とくに、データ駆動型の理論産出、知識生成において、どのような規範性が求められているのか、求められるべきなのか、について調査と考察を行う。 ・また、すでにデータ収集やデータ管理の社会的側面での問題については成果でも言及しているが、これら問題を解決しうるようなデータ収集・受容・共有のための制度的枠組みについても検討する。 ・「データ」および、そのデータを利用して産出される知識コンテンツについて、認識論的/社会的両面からその妥当性を評価・支持可能であるような枠組みを明確化する。 当初から本研究は、科学理論・科学知識産出のための科学者共同体および、その成果としての科学的知識コンテンツの受容者をひとつの社会として想定したうえでの、知識コンテンツの産出、評価、受容、管理、共有、維持、のプロセス全体を俯瞰できる枠組みの構築を目指していた。上記のように、領域を設定することで、知識の多様な価値を包含する認識論的枠組みの実践的射程を適切に見積もることができると思われる。
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Research Products
(6 results)