2016 Fiscal Year Research-status Report
言語接触論・通言語学的観点から捉えた日本語の形成における漢文訓読の役割の再検討
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16K20923
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Research Institution | Yamagata University |
Principal Investigator |
ジスク マシュー・ヨセフ 山形大学, 大学院理工学研究科, 助教 (70631761)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 日本語史 / 漢文訓読 / 言語接触 / 言語借用 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は研究計画調書に記したように、日本の訓点資料における借用形式の調査に専念した。具体的には西大寺本『金光明最勝王経』平安初期点を調査資料とし、全10巻から翻訳借用語(loan translation)180語と借用転成(loan derivation)22語を採集した。採集した用例を分析した結果、翻訳借用語の場合は一対一の直訳が圧倒的に多いが、なかには音調を整えるために複合語の項を逆にしたものや、日本語において同様な概念がないため、一部を意訳したものがあることを明らかにした。また、転成借用については転成のパターンは基本的に日本語の形態統語論的法則に従っているが、転成の結果生まれた語形は意味の面で転成する前の語形から大きくかけ離れている場合が多いことがわかった。本調査の成果はThe 24th Japanese/Korean Linguistics Conferenceで発表し、後に同学会の機関紙で論文として公表した。 もう一つの課題として、訓点資料における訓読みの定着過程を見てきた。その結果、古代において難解な字の訓を決める際に加点者は中国の字書や古典注釈書でその字を調べ、字書・注釈書の記述に現れる比較的容易な字を基準にして(reference character)、機械的に訓を選定したという仮説を立てた。本調査の成果は国内と海外(ドイツ)の研究会で発表した。また、この他、訓点語における文法化の種類について国内の研究会で発表した。 上記の調査に加えて、本年度は2011年より構築を続けている「中古・中世漢字・仮名交じり文コーパス」の資料を大きく増加した。具体的には亀井孝・水沢利忠(1964-1973)『史記桃源抄の研究―本文篇』(日本学術振興会)全5冊の内、第1冊と、第2冊の約半分程度(計約25万字)を電子テキスト化した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画調書には平成28年度中に次の三つの仕事に従事すると述べた。 ①西大寺蔵『金光明最勝王経』平安初期点における借用形式を調査する。 ②調査結果をまとめたうえで、日本語における漢字・漢文を媒介とした言語借用形式の特徴を明らかにする。 ③亀井孝・水沢利忠(1964-1973)『史記桃源抄の研究―本文篇』(日本学術振興会)全5冊の電子化を始めると同時にこれまでに電子化してきたテキストの再校正作業を行う。 ①・②についてはおおむね計画通りに研究成果が挙げられたと言える。③は予算削減のため、以前に電子化したテキストの再校正ができなかったが、史記桃源抄の全5冊の内、約1冊半が電子化でき、このペースで進むと、平成30年度までには全5冊の電子化が完了できそう。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度は引き続き訓点資料の調査を行いながら、グロス資料の現地調査を始める予定である。研究計画調書には2月頃に第1回のグロス資料現地調査(ドイツ・8 日間ほど)を行うと記したが、8月末に開催されるThe Fourteenth International Conference On The History of The Language Sciences (ICHoLS XIV)で研究発表を行うことが決定したため、本年度行うグロス資料調査を2回に分けて、第1回をICHoLS XIVと同時期にフランスで行い、第2回を計画通り2月頃にドイツで行うことを検討している。ICHoLS XIVではThree types of semantic influence from Chinese through kundoku glossing on the Japanese languageという題名で日本語における意味借用のパターンと起こり方について発表する。また同年度内に漢文訓読を媒介とした意味借用について英語で論文を執筆する予定である。 8月に行うフランスの現地調査ではフランス国立図書館を訪ね、2月に行うドイツの現地調査ではドイツ国立図書館とベルリン州立図書館を訪ね、実際のグロス資料を閲覧すると共にグロスとグロスにおける借用形式についての先行研究を収集する予定である。 この他に昨年度より日本語における漢字・漢文を媒介とした言語借用形式の分類と5つのケーススターディをまとめた英文論文2本(前編と後編)を執筆しており、本研究期間内には公表する予定である。 史記桃源抄の電子テキスト化作業は平成29年度も引き続き行い、平成29年度内に5冊の内、4冊の電子化を終わらせる予定である。最後の1冊と全体の校正作業は平成30年度に行う予定である。
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Remarks |
Academia.eduには平成28年度中に行った学会発表のパワーポイントをすべて掲載している。
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