2017 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
16K20956
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Research Institution | Saitama University |
Principal Investigator |
高橋 雅也 埼玉大学, 教育学部, 准教授 (00549743)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 震災遺構 / ケアツーリズム / 保存・継承 / スタディツアー |
Outline of Annual Research Achievements |
当該年度は、震災遺構をめぐる観光体験がどのような形で提供されているのか、また、来場者はそれをいかに受容するのかについて具体相を探るために、観光対象となる「仙台市立荒浜小学校」旧校舎の保存のあり方、校舎内の展示内容・方法を確認するとともに、じっさいの来訪者が見学する様子などにも注目しながら調査をおこなった。 荒浜小学校は海岸から約700m内陸部に立地しており、周辺には津波で家屋等が押し流されて基礎だけ残されている状態が散見されるほか、東日本大震災慰霊之塔及び観音像が建てられており、来訪者の多くが同ルートを辿って当事者の被災経験に思いを致し、各様の慰霊を行う「記憶の場」となっている点を確認できた。 また、荒浜小学校旧校舎は、屋上に避難した住民全員が救助された経緯から、また多くの卒業生を送り出した学び舎という含意からも、感謝の対象として保存されていることが確認できた。旧校舎は当然ながらガレキ等は撤去されているが、昇降口や教室、階段の各所に被災当時の写真と当時の状況を伝えるパネル等が設置され、学校生活の日常と震災当日の〈時間性の断絶〉と表現しうる実態を伝えている。校舎の壁や校内の廊下、天井に残された痕跡が津波の到達点を示しており、それらをもとに来訪者は教室等をのぞき込みながら当時の混乱や惨状をそこに読み込んでいく。 指摘するべきは、校舎内は見学経路が定められ、来訪者は上記のような被災の実態を伝える展示を見学した後、今を生きる者に残された記憶の継承という課題を示唆する展示へ進むように構成されている点である。津波の襲来と避難行動を時系列で整理した分析的記述による展示のほか、被災以前の荒浜地区を模したジオラマ、災害への備え等に関する展示は、荒浜の歴史を語り継ぐこと、それを現在へと接続することを意図しており、こうした来訪者の災害学習を通して旧校舎を「震災遺構」たらしめている点を明らかにできた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
修正後の使用計画として掲げた、スタディツアーの来訪者の反応に関する調査については、とりわけ3月11日の慰霊記念行事を対象としたフィールドワークを通して、その具体相を知ることができた。震災遺構としての保存の意義や意図も、来訪者に対して提供される災害学習や、旧校舎における被災経験の表象のあり方を通して理解することができた。 また、教員や卒業生、地域住民ほかの関係者が、震災の語り継ぎや慰霊行為において重要な意味をもつ象徴的な場所として震災遺構を位置づけ、当事者の語りを改めて掘り起こしたり、行事を企画したりといった活動を展開している点を確認することができた。 ただし、スタディツアーにおいて被災者と来訪者の間で展開された相互作用を明らかにし、そこにケアの営みを見出すことに関しては、ツアーによる学びの意義が前景化する一方で、調査が思うに任せない部分があった(これが次年度使用額が生じた理由でもある)。
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Strategy for Future Research Activity |
荒浜小学校のスタディツアーに関しては、課題として残った被災者と来訪者の相互作用を明らかにするべく、スタディツアーの受け入れ時に同行させていただく等の方法を講じて調査を進めていく予定である。 あわせて、宮城県東松島市の野蒜築港に関する震災遺構の調査に着手していく。ただし、予備調査によれば、野蒜築港そのものについては震災の語り継ぎのなかでやや後景に退いており、平成28年10月に旧野蒜駅が「東松島市震災復興伝承館」として開設されたが、そこでの野蒜築港の位置づけも問われてくる。そのため、東松島市が構想・展開するスタディツアーにおける野蒜築港の扱いにも目配りする等の方法を講じて調査を進めていく予定である。
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Causes of Carryover |
震災遺構「仙台市立荒浜小学校」の保存論議をめぐるステイクホルダ―に対する聞き取り調査、および被災者と来訪者の相互作用を把握することを目的とする調査が難航し、予定していた調査(出張)を実施できなかったことが次年度使用額が生じた理由である。 使用計画として、荒浜小学校については、団体のスタディツアーの受け入れ時になるべく多く同行させていただき、ガイド(語り部)への聞き取り調査を実施したい。あわせて、宮城県東松島市の野蒜築港に関する震災遺構の調査にも着手する。
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