2018 Fiscal Year Research-status Report
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16K20956
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Research Institution | Saitama University |
Principal Investigator |
高橋 雅也 埼玉大学, 教育学部, 准教授 (00549743)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 震災遺構 / ケアツーリズム / 保存・継承 / スタディツアー |
Outline of Annual Research Achievements |
当該年度は、震災遺構「仙台市立荒浜小学校」の旧校舎における展示内容について、主としてコンテンツ分析を行った。そのいくつかについてピックアップして記す。 体育館跡の案内板には、2010年のチリ地震津波の経験を活かして避難場所を体育館から屋上に変更しておいたことが奏功し、東日本大震災では多くの命が救われた旨が書かれており、同様に震災遺構に関連づけて防災対策の重要性を伝えるコンテンツが随所に見られた。 また、平穏な日常を切り裂いて襲来した地震津波であったこと、「思い出いっぱいの場所が瓦礫の山に」(施設内の表示)といったように、津波が時間の流れや蓄積を寸断するものであったことを強調した表現が多々確認された。 その一方で、荒浜小学校児童の作成による「あらはまカルタ」が被災後の新たな取り組みの成果として展示されており、津波一色で塗り込められるべきでない荒浜の歴史や魅力を再提示するものになっていた。 また「失われた街」模型復元プロジェクトの成果物が展示されており、同プロジェクトが神戸大学の学生によって推進されていることの説明書きが、被災という共通経験が人びとをして郷土史の再生へと向かわしめることを伝えていた。あわせて、「津波はまた来る」という文字と共に、減災を念頭においた仙台市による土木面の津波対策のアウトラインが展示されていた。 総じて、被災当時の光景と現状との対比によって容易に共有できない経験の絶対性を示唆しながら、それを前にして立ち尽くすだけでなく、災害と向き合う主体の形成を促していくコンテンツの特性が析出された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
震災遺構として保存されている施設および施設内の展示にふれて、来訪者がどのような反応をみせているのかについて、フィールドワークを通していくらか具体的に把握することができた。また展示内容のコンテンツ分析を通して、来訪者に対して被災経験がどのように表象され、〈学びの対象化〉されているのかを知ることができた。 そのような〈対象化〉は、いかなる経験や表象のあり方が来訪者にとって受容可能なのか、他方で共有することが難しい経験や表象とはどのようなものかに関する区別立てをともなうことが確認できた。 ただし、被災者と来訪者の相互作用のなかで、被災者が〈経験の語り〉を変容させたり、来訪者が他者理解のフレームを新たに構築していく過程については、十分な調査にもとづく分析をするには至っていない。
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Strategy for Future Research Activity |
「仙台市立荒浜小学校」については、施設の案内ボランティアと管理・運営スタッフに対して、被災者と来訪者の相互作用およびそれを契機とした〈経験の語り〉や展示・表象の変化に関して詳細に聞き取り調査を行っていく。地域内外から受け入れている交流事業についても分析を進める。 旧野蒜駅の「東松島市震災復興伝承館」については、予備調査をふまえて、展示等に対する来訪者の反応を確認しつつ、開館前/後から今日に至る伝承に関するコンセプトワークの実相を探っていく。あわせて、同市が構想・展開するスタディーツアーにおける伝承館や野蒜築港の位置づけについて聞き取り調査を進める。 「宮城県石巻市立大川小学校」については、依然として避難行動をめぐる論争的な側面があるが、震災遺構としての整備が進み、令和3年の供用(予定)を控えて、〈経験の語り〉を通した被災経験の表象のあり方は構想されていると思われる。先行して活動を展開している語り部に聞き取りを行い、様々な当事者やステイクホルダーに配慮したケアのコミュニケーションに関する立場について聞き取りを行おうと考えている。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由としては、第一に、震災遺構を見学する災害学習を主眼としたスタディツアーがいかに展開され、参加者がどのような観光体験や感情経験、認識の変化をしたのかについて徹底した調査を実施することができなかったため。 第二に、復興開発計画における震災遺構および復興ツーリズムの位置づけについても、被災者と来訪者の相互作用を明らかにする調査の必要性を実感するに至った一方で、これに着手することができなかったためである。 これらの不足を補う調査を順次実施し、適切に使用していく計画である。
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