2016 Fiscal Year Research-status Report
乳癌幹細胞の制御における抑制型Smadの機能と分子メカニズムの解析
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16K20974
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
赤木 蓉子 (勝野蓉子) 東京大学, 大学院医学系研究科(医学部), 助教 (70771004)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | TGF-beta / EMT / がん幹細胞 |
Outline of Annual Research Achievements |
TGF-betaによる上皮間葉移行 (EMT)の誘導は、がんの浸潤や転移、がん幹細胞様の性質の獲得につながる。近年の研究で、メチルトランスフェラーゼによるタンパクのメチル化がタンパクの機能を決める重要な役割を持つことがわかってきている。本研究課題では、メチルトランスフェラーゼである PRMT1とSmad6、Smad7の相互作用がTGF-betaシグナル伝達と、TGF-betaによるEMT誘導やがん幹細胞の性質の獲得の制御において果たす役割を明らかにすることを目的として研究を行っている。 これまでの研究で、PRMT1によるSmad6、7のメチル化の、TGF-betaシグナル伝達における重要な役割が明らかにされている。本年度の研究では、TGF-betaによる乳がん細胞のEMT、がん幹細胞の産生に、PRMT1によるSmad6、7のメチル化が必要であることを示した。TGF-betaは、乳がん細胞において、EMTを誘導し、運動・浸潤能を更新させ、がん細胞の脱分化とがん幹細胞の形質の獲得を促す。TGF-betaで短時間刺激することにより、乳がん細胞株は一時的に間葉系と幹細胞の形質を獲得するが、TGF-betaを除くと細胞は上皮系の性質を再獲得し、幹細胞の性質を失う。一方、乳がん細胞をさらに長時間TGF-beta存在下で培養することにより、間葉系の性質と幹細胞様の性質を安定化させることができ、TGF-betaを除いても細胞は間葉系にとどまり、幹細胞様の形質も維持される。間葉系、癌幹細胞様の形質が安定化された細胞においては、内因性のTGF-betaシグナルとその下流のシグナルが活性化されている。このモデルを用いて、PRMT1のノックダウン等を行い、Smad6、Smad7のメチル化がTGF-betaに誘導されるEMTとがん幹細胞の形質、腫瘍形成能の獲得に重要な役割を持つことを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度予定していた通り、TGF-betaよる乳がん細胞のEMT、がん幹細胞の産生におけるSmad6、Smad7のメチル化の役割を明らかにするため、PRMT1のノックダウン細胞等を用いた解析を行った。研究に必要となる乳がん細胞を用いたシステムを確立し、当初の仮説通り、PRMT1によるSmad6、7のメチル化がTGF-betaによる乳がん細胞のEMT、がん幹細胞の産生に必要であることを示した。このシステムを用いて予定通り今後さらに詳細な分子メカニズムの解明を進めることができると考えられるので、本年度は概ね順調に進展していると言える。また、当初予定通りアメリカ、カリフォルニア大学の共同研究者とはデータの交換、ディスカッションを行い、研究を効率的に進める助言やマテリアルの供与などの協力を受けながら順調に実験を進めることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の研究で、Smad6、Smad7のメチル化がTGF-betaに誘導されるEMTとがん幹細胞の形質、腫瘍形成能の獲得に重要な役割を持つことが示された。次年度の研究では、当初の予定通り、TGF-betaに誘導されるEMTと乳がん幹細胞の産生のSmad6、Smad7による制御の分子メカニズムの解明を進める。特に、EMT 誘導とがん幹細胞の産生を制御する内因性の遺伝子の転写制御に着目する。これらの遺伝子の転写において、Smad6、7 のメチル化の転写抑制作用における役割の分子レベルでの解析をSmad6、Smad7の変異体を用いた遺伝子発現解析、ChIP、共免疫沈降法などを用いて進める。さらに、Smad6、Smad7のメチル化のがん幹細胞制御における重要性を、マウスモデルを用いたin vivoの検討を行うことにより明らかにする。
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Causes of Carryover |
次年度行う分子メカニズムの解析には、培養細胞を用いた生化学実験を行う必要がある。また、次年度にマウスモデルを用いた解析を行う予定であり、これらの実験に用いるがん細胞株の培養、試薬類、移植用マウスの購入にかかる経費が必要であり、今年度分の一部を次年度使用額とした。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度は、培養細胞を用いた生化学実験を行い、分子メカニズムの解析を進める。また、がん細胞のマウスへの移植モデルを用いたin vivoでの解析を行う予定である。これらの実験に用いるがん細胞株の培養、試薬類、移植用マウスの購入に使用する。
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Research Products
(3 results)