2016 Fiscal Year Research-status Report
発生初期の分化多能性獲得過程における転写因子のクロマチン結合動態の解析
Project/Area Number |
16K20975
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
中村 遼平 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 助教 (30756458)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | クロマチン構造 / リプログラミング / 初期発生 |
Outline of Annual Research Achievements |
脊椎動物の発生の初期段階において、受精卵はリプログラミングを受け、分化多能性を持つ細胞集団(胞胚期)を作る。この過程において、親から受け継いだクロマチンのエピジェネティック修飾パターンは、多能性細胞の転写状態を制御するためのパターンに戻される。DNAメチル化やヒストン修飾については受精直後の動態が明らかにされつつあるが、それを制御すると考えられる転写因子のクロマチンへの結合動態については、初期胚の細胞数の少なさなどの問題から解析されていない。本研究は転写因子の結合を少数細胞から網羅的に解析できるATAC-seqと、受精直後の胚を大量に得られるメダカを用いることで、今まで未知であった胞胚期以前の転写因子結合動態を記載し、クロマチンのリプログラミングの転写因子による制御機構を解明する。 平成28年度までにメダカの桑実胚から胞胚期までのATAC-seqデータの収集を完了した。さらにヒストン修飾情報も同様に収集した。これらのデータを解析することで、この発生段階において転写因子結合可能部位がダイナミックに変化していることが明らかになった。特に、ヒストン修飾と転写因子結合可能領域はゲノム上で相関がみられるものの、出現するタイミングにはずれがあることが明らかになり、両者の間に依存関係があることが示唆された。今後は転写因子やヒストン修飾酵素の阻害実験などによってリプログラミング過程のクロマチン制御メカニズムを明らかにする。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成28年度までにメダカの桑実胚から胞胚期までのATAC-seqデータ、ヒストン修飾情報を収集した。データ解析の結果、転写因子結合可能領域の大規模な変化のほとんどはこれらの発生ステージに起こることが示唆され、データ収集はほぼ完了したため、概ね順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度までに得られたデータを詳細に解析し、発生初期のリプログラミング過程において最初に転写因子が結合する配列や、一過的に結合する配列を同定する。これらの配列に結合する転写因子はリプログラミングにおいて重要な役割を持つことが推測される。同定した候補因子の機能についてノックダウン(モルフォリノアンチセンスオリゴ)、あるいはノックアウト(CRISPR-Cas9)によってクロマチン修飾との関連を検証する。具体的には、機能阻害した胚においてChIP-seqを行い、修飾パターンの変化が確認できた場合、ATAC-seqによる結合(フットプリント)の消失の確認、およびクロマチン修飾酵素との相互作用の有無の検証を行う。
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Causes of Carryover |
平成28年度までにメダカの桑実胚から胞胚期までのATAC-seqデータ、ヒストン修飾情報を収集した。当初の計画ではより早い発生ステージにおけるデータも収集予定であったが、得られたデータの解析の結果、転写因子結合可能領域の大規模な変化のほとんどはこれらの発生ステージに起こることが示唆され、データ収集はほぼ完了したと判断した。したがって、当初予定していたよりもシークエンスに必要な試薬が少なくなり、次年度使用額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成29年度では、これまでに得られたデータを詳細に解析し、発生初期のリプログラミング過程において重要な機能が予測される因子を同定し、それらの機能阻害した胚においてヒストン修飾情報、ATAC-seqデータの収集を行う。これに翌年度分の助成金を使用する。さらに、これまでに得られたデータから、ヒストン修飾と転写因子結合可能領域の間にも依存関係が示唆されたことから、当初の予定に加えて両者への摂動実験も行う。次年度使用額はこの分のシークエンス試薬代に当てる。
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