2018 Fiscal Year Research-status Report
遅延方程式により定式化される感染症モデルの数理解析:免疫減衰と不安定性
Project/Area Number |
16K20976
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Research Institution | Shimane University |
Principal Investigator |
中田 行彦 島根大学, 学術研究院理工学系, 講師 (30741061)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 数理モデル / 遅延微分方程式 / 力学系 / 安定性 / 周期解 / 時間遅れ / 感染症 / 爆発解 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、個体の免疫減衰や増強を考慮した複雑な感染症数理モデルの安定性解析や挙動解析、また関連する遅延微分方程式の解析を行った。適当な人口集団で感染症の流行が起こると、人口集団の個体レベルでは疾患状態や抗体レベルが変化する。申請者は、共同研究者の大森亮介氏(北海道大学)とホスト個体の感受性変化を記述した単純な感染症流行モデルの挙動について考察を行った。個体が、感染によって免疫を獲得したり、感染への感受性が減少することが知られている。数理モデルの解析によって、免疫や感受性の増強によって、感染症流行動態が複雑なものとなる可能性を示した。特に基本再生産数と呼ばれる閾値が1を下回る場合でも、個体の再感染によって人口集団での流行が引き起こされることを初めて明らかにした。本結果は現在学術雑誌から発表されている。さらに、同様の現象を出来るだけ簡単にしたモデルについても解析を行い、感染症流行が起こる条件の定式化を行っている。 また申請者は、小児感染症の周期性を説明した遅延微分方程式がもつ周期解にについて数理的に検討を行っている。申請者は、可積分系の非線形常微分方程式から遅延微分方程式の周期解を構成出来ることを発見し、通常は自明出ない、遅延微分方程式の解構造を明らかにした。本結果は、論文として纏められ、現在学術雑誌から発表されている。引き続き、同様の周機解をもつ遅延微分方程式のクラスを現在明らかにしている。 上記の結果の他に、石渡哲哉氏(芝浦工業大)、石渡恵美子氏(東京理科大)らとは、これまでの研究例が少ない、爆発解をもつ遅延微分方程式の解析に着手している。さらに、Ph. Getto(ドレスデン工科大)、M. Gyllenberg(ヘルシンキ大)、F. Scarabe(ヘルシンキ大) らと、状態依存遅れをもつ遅延微分方程式によって定式化された細胞個体群モデルの安定性解析を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
研究提案を行った免疫減衰・増強を考慮した感染症数理モデルに対して、特別な場合においては、その遷移挙動や大域安定性、周期解の存在性を明らかにすることが出来た。これらの結果を基に、特に周期会の存在について、計算機を併用しながら多角的に解析を進めており、今後の研究のさらなる発展が見込まれる。また状態依存遅れをもつ遅延微分方程式による細胞個体群モデルの解析や、爆発解をもつような遅延微分方程式に関 する研究なども順調に進め、多くの結果を得ることが出来た。これらの理由から、研究課題は当初の計画以上に進展していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度に解明が進んだ成果については順次、論文として投稿して発表する。特に、免疫減衰・増強をもつ感染症数理モデルの定式化と数理解析を引き続き遂行し、複雑な感染症動態への洞察の獲得を目指す。感染症数理モデルと関連する非線形遅延微分方程式の力学解析を行う。
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Causes of Carryover |
当初、新たな計算機の購入を予定していたが、以前から使っている計算機が、業務に差し支えないことが当該年度でわかり、購入を差し控えている。一方で、海外で行われる複数の国際学会から講演依頼を受けており、次年度使用額は、国外への出張旅費に当てる予定をしている。
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