2016 Fiscal Year Research-status Report
菌体内脂肪酸アルデヒド定量法を用いたアルカン生産に特化した大腸菌の創製
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16K20986
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
林 勇樹 東京大学, 大学院総合文化研究科, 助教 (90444059)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 進化分子工学 / アルカン生合成 / 遺伝子破壊株ライブラリ / アシルACP還元酵素 / アルデヒド脱ホルミル化酵素 / アシルACP |
Outline of Annual Research Achievements |
大腸菌内でアシルACP還元酵素(AAR)とアルデヒド脱ホルミル化酵素(AD)を共発現することでアルカンが生成される。しかし、(1)アルカンの初期基質であるアシルACPは、脂肪酸合成の負のフィードバック制御や転写因子による制御を受けるため、大量に生成、蓄積できない。また、(2)生成されたアルデヒドが内在性の酵素によりアルコールに還元される。(3)ADの活性が非常に低い。そのため、大腸菌でのアルカンの大量合成を行うには上記の問題を解決する必要がある。 そこで、本研究では課題(1)に対し、トランスポゾンを用いた大腸菌ゲノムのランダム破壊株ライブラリを構築し、その中から脂肪酸合成が増強された遺伝子破壊株の探索を行う。課題(2)に対し、アルデヒド還元酵素群の遺伝子破壊株を創出する。並行して、脂肪酸合成を促進する転写因子fadRの過剰発現株を創出する。課題(3)に対し、ADの簡便な活性検出系を開発し、本検出系を用いた進化分子工学により、高活性AD変異体の創出を目指す。 当該年度では、様々な藻類に由来するAARの活性を比較し、高効率にアシルACPをアルデヒドに変換する高活性AARの探索を行った。その結果、Synechococcus elongatus PCC 7942由来のAARが最も高活性であることが明らかとなり、投稿論文として報告した(Biotechnology for Biofuels 2016 )。本研究に先立って開発した菌体内アルデヒド生成量を発光量として検出する系と上記の高活性AARを用いて、大腸菌ゲノムのランダム遺伝子破壊により脂肪酸合成が増強された(アシルACPの生成量が増加した)株の探索系の構築を進めている。並行して、アルデヒド還元酵素群の遺伝子破壊株構築に向けた準備も進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当該年度において、様々な藻類に由来するAARの中から、菌体内でアシルACPを基質としてアルデヒドを高効率に生成するAARの選定を行った。その結果、Synechococcus elongatus PCC 7942由来のAARが最も高活性であることを明らかにし、投稿論文として報告した(Biotechnology for Biofuels 2016)。 次に、大腸菌ゲノムのランダム遺伝子破壊株ライブラリから、AARの基質となるアシルACPの生成を増強する遺伝子破壊株の探索を目指した。本研究に先立ち、菌体内アルデヒド生成量を発光量として検出する系の最適化を進めた。本手法は、コロニーの状態で約1000種もの多数の遺伝子破壊株(あるいは変異体)のアルデヒド生成量を発光量として同時に評価できる。一方で、96ウェルプレートによる液体培養により、プレートリーダーを使ったリアルタイムの濁度測定と発光測定が実現でき、より定量的に菌体内アルデヒド生成量を評価できる。前者は、多数の遺伝子破壊株ライブラリから活性の低い遺伝子破壊株(あるいは変異体)を評価、排除することができ、後者は、アルデヒド生成量の高い遺伝子破壊株(あるいは変異体を定量的に評価、選択できる。こうした系の最適化のために、培地、植菌量、植菌方法、温度といった種々の条件検討が必要であり、多くの時間を要したが、上記の方法を組み合わせることでより多くの遺伝子破壊株をより定量的に評価、探索することが可能となり、今後の研究を大幅に加速させるものとなった。 現在、トランスポゾンを用いた大腸菌のランダム遺伝子破壊株ライブラリの構築を進めている。得られたライブラリの中から、脂肪酸合成を増強する遺伝子破壊株を、発光による検出系を用いて、評価・選択できる条件を構築中である。並行して、アルデヒド還元酵素群の逐次的遺伝子破壊株の作成にも取り掛かっている。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は、トランスポゾン挿入を利用した大腸菌ゲノムのランダム破壊株ライブラリの構築を進め、脂肪酸合成を促進する遺伝子破壊株の探索を進める。 寒天培地上のコロニーの状態で発光をX線フィルムに露光することで、1枚のプレートで約1000種もの遺伝子破壊株の菌体内アルデヒド生成量を一度に評価することができることからハイスループットであるが、寒天培地への初期植菌量の違いによるアルデヒド生成量への影響があることから定量性は高くない。また、X線フィルムで発光を検出する場合、以下の問題点が明らかとなった。リアルタイムに発光を検出することができない。発光検出のダイナミックレンジが狭い。コロニーとX線フィルムとの間に距離があるため、不明瞭なスポットとして露光される。化学発光撮影装置を用いることで、コロニーの発光量の経時変化を測定することができ、広いダイナミックレンジで、焦点距離を合わせた撮影を行うことで、上記問題が全て解決できる。そのため、計画を変更して化学発光撮影装置の購入を進めることとする。 次に、大腸菌の遺伝子破壊によるアシルACPの増産を発光で検出できる系の構築を進める。その条件下において、コロニーの状態での発光量を化学発光撮影装置でタイムラプス撮影し、菌体内のアシルACPの生成量を定性的に評価・選択する(1次スクリーニング)。選択された遺伝子破壊株に対し、液体培地とプレートリーダーを用いて定量的に評価し(2次スクリーニング)、脂肪酸合成に特化した大腸菌遺伝子破壊株の取得を目指す。並行して、アルデヒド還元酵素群の遺伝子を逐次破壊した多重変異体株の創出、進化分子工学によるADの高活性化に取り組む。
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Causes of Carryover |
平成28年度に、96ウェルプレートで培養、集菌、破砕、ろ過、プラスミド回収が行えるように冷却高速遠心機とプレート用スウィングローターの購入を予定していた。しかし、寒天培地上のコロニーの状態で発光によるアルデヒド生成量をリアルタイムに発光量として検出することで、1000種以上の多数の変異体(あるいは遺伝子破壊株)のアルデヒド生成量を評価できる。そのために、予定を変更してリアルタイムに発光量を測定できる高感度化学発光撮影装置の購入を進めることにしたため、次年度使用額に変更が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
寒天培地上のコロニーの状態で発光の経時変化を撮影(ライムラプス撮影)することができ、複数枚のシャーレを同時に撮影でいる撮影面積の大きな化学発光撮影装置の購入を予定している。現在、上記条件を満たす6種の化学発光撮影装置のデモを予定しており、実際のサンプルを用いたデモ撮影の結果から機種選定を行い、6月までに購入する予定である。
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