2016 Fiscal Year Research-status Report
事業所間の生産技術の異質性と製造業の生産性成長率に関する実証分析
Project/Area Number |
16K21004
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
鈴木 通雄 東京大学, 大学院経済学研究科(経済学部), 講師 (40580717)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 生産性 / 生産関数 / 生産技術の異質性 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成28年度は、当初の計画の通り、生産関数の同定と推定、日本の製造業の集計生産性成長率の要因分解について共同研究を行った。具体的には、同一産業内での事業所間、企業間の生産技術の異質性を考慮に入れた生産関数の同定と推定の問題について引き続き研究を行った。理論的には、当期に容易に調整できる投入要素として、材料、電気、燃料などの中間財のみを考える場合、中間財に加えて労働投入の調整も考慮する場合、それぞれについて、モデルの同定可能性と推定方法を分析した。
製造業の集計生産性成長率の要因分解については、上記の生産関数の推定方法を、Petrin and Levinsohn (2012, RAND Journal of Economics)が提案した集計生産性成長率の要因分解に応用した。既存研究では、同じ産業に属する事業所間では生産技術は同一であると仮定するのが一般的であるが、その仮定が集計生産性成長率の要因分解にどのような影響を与えるかについては十分議論されていない。本研究は、ランダム係数を伴うコブ・ダグラス型生産関数を推定することにより、事業所間の生産技術の異質性の影響を定量的に分析した。工業統計を用いた実証分析から得られた主な結果は以下の通り。事業所間の生産技術の異質性を考慮すると、しない場合に比べて、各事業所内の生産性成長率、事業所間の生産要素の再分配、双方の寄与度の年次変動が小さくなる。中間財費・売上高比率の分散が大きく、生産技術の異質性の度合いが高いと考えられるニット製外衣製造業においては、バブル後の1992年から1997年にかけて、生産要素の再分配による生産性成長率は、事業所間の技術の異質性を考慮した場合に-0.5%であるのに対し、異質性を考慮しない場合は0.4%になるとの結果を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画では、工業統計調査の事業所レベルデータの準備とFinite mixtureモデルで事業所間の異質性を考慮した生産関数の同定可能性と推定方法の分析を主に行う予定であったが、ほぼ予定通りに進められた。推定については、GMMを用いた2段階推定の他に、パラメトリックな確率分布を仮定した最尤推定も行う予定であったが、後者はまだできていない。一方、前者の2段階推定を用いて、製造業の集計生産性成長率の要因分解について分析をはじめることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
Finite mixtureモデルで事業所間の異質性を考慮した生産関数の同定可能性と推定方法の研究については、最尤推定を重点的に行う。さらに、当初の計画通り、細分された産業ごとに生産技術のタイプの数の検定と事業所間で生産技術のタイプがどのように異なるのかについて分析を行う。また、同一産業内での事業所間の生産技術の異質性を考慮する場合としない場合とで、推定された事業所レベルの生産性成長率や生産性と設備投資、輸出などのデータの相関にどのような違いが出るのか詳細に分析する。
製造業の集計生産性成長率の要因分解については、対象の産業を拡大し、より包括的な分析を目指す。さらに、税制改正、補助金政策、規制緩和等の個別政策の効果、2000年代後半の米国を中心とした金融危機などのマクロショックの影響などを調べる予定である。
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Causes of Carryover |
HP製ワークステーション(HP Z840)を購入予定であったが、高性能のノートパソコンが必要になったため、今年度はVaio Zを購入した。さらに、今年度は研究を進めることに集中したため、英文校閲を使わなかった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
海外の研究協力者(笠原博幸准教授、Paul Schrimpf助教授、西田充邦助教授)との共同研究や研究成果発表のための国際学会参加のための出張費に充てる予定である。
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