2016 Fiscal Year Research-status Report
社会主義ユーゴスラヴィアにおける多民族空間の形成および崩壊とナショナリズム
Project/Area Number |
16K21020
|
Research Institution | Tokyo University of Foreign Studies |
Principal Investigator |
鈴木 健太 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 研究員 (00749062)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
|
Keywords | 現代史 / ユーゴスラヴィア / ナショナリズム / 多民族 / セルビア / スロヴェニア |
Outline of Annual Research Achievements |
初年度にあたる本年度は、1:研究着手に伴う基礎的な作業にあたるとともに、2:具体的な検討課題 (A)「多民族空間の形成・実践とナショナリズム」および (D)「多民族社会の崩壊/破壊とナショナリズム)」の分析・検討に取り組んだ。 1に関しては、先行研究や関連二次文献の調査と収集、また政治史の整理を行いつつ、本研究における4つの具体的な検討課題の精緻化を進めた。その際、ヨーロッパの20世紀史のより広い文脈や他地域との比較の視点を参照し(その成果の一部が『東欧史研究』書評)、研究の枠組みや問題関心の改善・拡充を図った。また旧ユーゴスラヴィア地域での現地調査を実施し、各地の図書館、博物館、書店などで、史資料の調査・発掘を行いながら、基本文献および2で用いる史資料を収集した。 2では、(A)の課題について、事実関係および多民族国家の制度設計に関する整理と分析を中心に考察を行っている。一方、(D)に関しては、計画を前倒しする形で、重点的に取り組んだ。まず、1980年代末のセルビアとスロヴェニアにおける大衆運動の展開を比較検討し、多民族社会の崩壊を控えた時代において、極端なナショナリズムが自制されながらも、運動の拡大を通じて民族/共和国の一体性が強化され、民族的な政治主体が温められていく様相を明らかにした(西洋史学会大会報告)。続いて、同時期の大衆運動をめぐる連邦党指導部の議論を分析し、統一国家の基盤であった最大の政治勢力内部に共和国間の齟齬が顕在化していく状況を示した(特別研究員研究会報告、国際ワークショップ報告)。また1990年前後のスロヴェニアを事例に、ナショナリズムが排他性を強めて急進化し、独立を後押ししていった過程について考察を進めた(その成果の一部が共著図書所収の論考)。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究課題に着手し、現地調査によって史資料の調査・収集を遂行しながら、基礎的な作業(上述の1)と具体的な検討課題(同2)の双方を進展させることができた。後者については、対象時代や内容が関連した国内学会報告の機会(5月の西洋史学会報告)を活かし、後続年度で実施する予定であった(D)を前倒しして実施した。これにより、(D)の分析と検討について、大方の道筋をつけることができた。また、その成果を国内学会のみならず国際ワークショップで発表し、国内外の研究者との意見交換を通して内容の充実化を図ることができたのは有意義であった。他方、本年度に当初予定した(A)の作業については、(D)に優先して取り組んだ分、次年度以降に繰り越し、継続して実施する予定である。
|
Strategy for Future Research Activity |
本年度は、研究開始の基礎的な作業とともに、多民族社会の崩壊期を扱った具体的な検討課題(D)に精力的に取り組んだ。ここで得られた成果のもと、引き続き現地調査による史資料の調査・収集を進めながら、ユーゴスラヴィアの建国期および存続期を主に対象とした検討課題(A)、(B)、(C)を進展させていきたい。なお、本年度に(D)を前倒ししたことに伴い、現在継続中の(A)の作業は、次年度に繰り越して実施する。また次年度は、初年度の検討内容を含めた研究成果の公開(とりわけ論文の執筆と発表)に努め、次々年度以降の研究期間後半の作業につなげたい。
|
Causes of Carryover |
発注した書籍資料の入荷が遅れ、年度内に届かなかったため。また国外出張時、利用航空会社の機内預け荷物の許容量が大きく、その分、日本への資料郵送費を抑えることができたため。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
上記文献について、継続して入荷を待ち、購入する。上述の後者の分については、来年度の文献資料の購入費、あるいは、国外出張費用にあてる予定である。
|
Research Products
(5 results)