2018 Fiscal Year Research-status Report
社会主義ユーゴスラヴィアにおける多民族空間の形成および崩壊とナショナリズム
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16K21020
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Research Institution | Tokyo University of Foreign Studies |
Principal Investigator |
鈴木 健太 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 研究員 (00749062)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | ユーゴスラヴィア / ナショナリズム / 民族 / 大衆 / 1989年 / 現代史 / 社会主義 |
Outline of Annual Research Achievements |
3年目の本年度は、主として、1:具体的な検討課題 (B)「政治的レトリックとしてのナショナリズム」および (D)「多民族社会の崩壊/破壊とナショナリズム)」の分析・検討に取り組んだ。加えて、2:本研究が扱う時代・地域についてのより広い視座や文脈、また比較の視点を参照し、獲得する作業にあたった。 1では、昨年度までの検討課題(D)の成果に基づき、社会主義ユーゴスラヴィアにおける1989年の諸事象を検討した。その際、大衆およびその政治運動に着目し、当時の体制において大衆の政治参画がどのような意味をもったかを踏まえつつ、1980年代末における大衆的政治運動の勃興が、多民族社会の崩壊にいかなる影響を与え、そのなかでナショナリズムがどう連関したかを考察した(その成果の一部が、シンポジウム報告および特別研究員研究会報告)。ここでの検討は、(B)の課題とも連動して進め、1980年代以前の事例を含めて、大衆的政治運動とナショナリズムがどのように結びつき、政治的レトリックとして表出するかを分析した。以上により、1989年の政治的展開において、大衆の政治参画が体制改革をめぐる共和国間の対立を増長させ、またその対立図式のなかでナショナリズムが排他的な側面を強めていく様相の一端が明らかになった(これら1の成果の一部としてはまた、学位論文および科研研究会報告)。 2に関しては、中東欧・ロシアの歴史認識をめぐる状況、ユーゴスラヴィア地域における資本主義と文化生活の関係、20世紀の歴史学や歴史教科書の南東欧-東アジア間の比較などに関する様々な知見の吸収、ならびにユーゴスラヴィア建国100年に際した研究集会の組織化と開催を通して、本研究に取り組む上での幅広い視角や問題意識の充実化を図った(『歴史評論』書評、共編の英語論集、『Acta Slavica Iaponica』書評、東欧史研究会主催シンポジウム)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
前年度までの検討課題(D)に関する成果を下敷きに、(B)の検討課題に取り組みながら、研究を進展させることができた。そのなかで、大衆および大衆的政治運動という切り口の導入は、個々の時代に即して設定した具体的な検討課題(A)~(D)を時代横断的に関連づけるという意味で、方法論的にも小さくない前進となった。それは、最終年度に向けた研究の総括を展望する上でも、研究課題全体として有意義であったと言える。加えて、そうした研究の遂行に際し、書評、論集の共編、シンポジウムの組織化などの機会を通して、幅広い視座や観点から研究課題に向き合うことができたのは有用であった。
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Strategy for Future Research Activity |
次の最終年度では、今年度までの成果を踏まえ、引き続き、史資料の分析・検討を行いつつ、同時に研究課題の総括を見据えて、研究を進展させていく。その際、適宜国内外の調査を実施し、史資料の補充を実施する。またこれまで進めてきた具体的な検討課題 (A)~(D)のうち、議論が不十分な箇所は補完・拡充する。そして最終的に全体としてのまとめの作業にあたる。
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Causes of Carryover |
2年目(平成29年度)に予定したが、実施できなかった現地調査の一部を引き続き繰り越しており、次年度に実施する予定である。次年度使用額は、主に、その際の旅費、また国外調査の場合は史資料購入費および日本への史資料郵送費として使用する。
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Research Products
(6 results)